北米版アニガサキブルーレイの話をしよう - もうひとつの"声" -
北米版アニガサキと言われて、何が思い浮かぶでしょうか。
私はロサンゼルスっぽい街中を盗んだ車で走り抜けるスーツガサキが浮かびます。
さて北米版ブルーレイとは、アメリカ向けに販売されているブルーレイパッケージの俗称みたいなものです。先日フォロワーさんからアニガサキ1期(「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」テレビアニメ1期)のパッケージが出ていることを教えて頂いて、面白そうなので買ってみました。
今回はそのレビューです。
結論、再生するためのハードルはあれども、虹ヶ咲を世界に広める"声"が他にもいることと、その魅力はもっと伝わって欲しいと思いました。それがnoteを書いた理由です。
Thanks for brilliant English dubs for Anigasaki. I enjoyed so much.
イントロという名の注意点
調べると分かりますが、北米版ブルーレイは国内向けと比べて安くお手軽に全話揃えられると考えがちです。
そこは作る側も懸念として把握しており、再生できる地域を限定したり強制的に英語字幕が出たり日本語音声を収録しないなどの制約やデチューンを課しています。
その為、基本的には不便さを解っている人が買うものであったり、コレクションアイテムであったり、私のようにEテレ版をブルーレイ画質で見たいとか吹き替え音声でアニガサキを楽しみたい酔狂向けのものです。
安いだけで万人にお勧めできるでものではないことを予め記します。
外装と同梱品
外装
日本語の豪華パッケージと比べるととても簡素です。型紙の中に見慣れたブルーレイのパッケージが入っています。イラストは第1期のキービジュアルですね。
写真ではあまり伝わりませんが、触ってみると日本語版のパッケージがいかにコストを掛けているか分かります。描き下ろしイラスト、装丁と質感、封入特典、特典映像などなど。
「ラブライブ!サンシャイン!!」などで全巻BOXが出ていますが、それらは北米版のようなパッケージとはコンセプトからして異なるため、やはり高価で豪華ですよね。このあたりはそれぞれの市場に合わせて作られていることを感じます。
背面と作品紹介
開ける前にトールケース背面の作品紹介を読んでみましょう。
シンプルながらキャッチコピーとホームページ掲載のストーリー紹介に近い紹介文などが載っています。
「Let my heart reach you!」は「届け!ときめき――。」の英訳です。グローバル版ホームページにも書かれています。
現在は2期の「響け!ときめき――。」にあわせて「Let my sound reach you!」になっています。スクールアイドルが持つときめきを"heart"と"sound"で表現する訳がとても好きです。
作品紹介も日本語・グローバル共にテレビアニメの紹介ページに書かれているものと近しい内容が書かれています。
収録されている映像の紹介。動画はビットレートやマスタリングの差はありそうですが日本語版と変わらなそうです。一方で音声は英語版がサラウンド表記。
日本語版がステレオなのに?!となりますが、このあたりは後述してます。
開封
2枚構成で第1話~第8話と第9話~第13話+にじよん+特典で分かれています。
レーベルのカットは話数ではなくニジガクメンバーの順番で載ってるようですね。話数に合わせれば良いのに…となんとなくもったいない部分があります。ケースの後ろには第7巻のジャケットイラストが印刷されています。
ブックレットなどは封入されていませんが、ランダム特典としてキャラクターカードが入っています。
せつ菜ちゃんでした。
再生してみよう
メニュー
合法的な視聴環境を整えて再生。メニューはいたってシンプルです。
映像
絵的な部分はEテレ版で見知っているためざっくりといきます。作品タイトルは日本語のままなんですね。歌も日本語ですし、
ヴィーナスフォートのロゴが消えているのは有名ですね。オープニングのスタッフロールクレジットは後から映像に被せると思うので英語になっています。
消すと見た目の影響が大きい場所は名前を変えているようです。
一番変化が大きいのはエンディング。映像はそのままですが、当然ながらパッケージを作るためのスタッフのクレジットになっています。
サビ前まではクランチロールなど北米版スタッフのクレジットが流れます。日本語版では最初に出る日本語版声優のクレジットも、北米版ではサビ以降に出てきます。
そして海外版とEテレ版独自のエンドカード。
同じブルーレイ版とはいえ、1枚2話収録の日本語版と比べて北米版は1枚最大8話収録です。詰め込む為にビットレートは減らされていると考えられます。細かく分析する環境がないですが、20Mbps~40Mbps近くで遷移していたのでもしかしたら動きの激しいシーンチェンジでは違いが出るのかもしれません。が、ブルーレイディスクを使用していた一挙上映会でも違いに気づかなかったので多分普通は分かりません…。
(一挙上映は音飛びと2期1話だけ海外版になった謎に目が向きました)
音声
予想外のサラウンド収録の吹き替え音声。
ウーファーを撤去してたので実質5ch分しかレビュー出来ていませんが、使い方はこんな感じでした。
セリフはセンタースピーカーを使用
リアスピーカーは背景音、BGM、MVで使用
リアスピーカーは人物やカメラワークに応じて調整してる感じはなく、単にフロントスピーカーと同じ印象。まぁ、そこまで予算を掛けられる価格ではないですし、そこまでやるなら日本語版もやれし…!となります。こういう使い方なので0.1chは使ってない可能性もあります。
総括としては、セリフがセンタースピーカーに寄せられていることで環境がある人は楽しめると思いました。疑似サラウンドでもここまで綺麗には分かれないですからね。
吹き替え音声の醍醐味
ブルーレイを買って良かった一番のポイントが吹き替えです。
クランチロールではアニガサキ2期にも海外吹き替え版が用意されています。(ライセンスから日本国内での視聴は不可)
https://www.crunchyroll.com/love-live-nijigasaki-high-school-idol-club
吹き替え版の魅力を伝えたいところですが、流石に画面を録画して載せるのは憚られるため、残念ながら文字で表現するに留めます。プロモーション動画だけでもあれば良いんですけどね…。
声質の似せ方とローカライズの絶妙さ
吹き替えがニジガクキャストの声質にかなり寄せられていて、違う言語なのに数分で慣れます。それでいて、当然ながら英語独自のイントネーションやフランクな言い回しが多数出てきてローカライズされています。聞き慣れた声で違う言語が飛びかう不思議な体験ができます。
キャストの情報は海外の情報サイトに掲載されています。ネイティブのミアちゃんも内田さんではなく別の方が担当しています。
例えば侑と歩夢は矢野さんと大西さんの声質と演じ方をかなり意識してますし、かすみは実際にこんなぶりっ子がいたなぁとなったり(※褒めてます)。一方でしずくと璃奈の落ち着いた声は英語にすると洋ドラに出てくる寡黙な俳優のトーンも感じられて結構面白いです。
字幕ではできないフル尺の会話を楽しめる
字幕は画面に収まるよう端的で説明的になりがちです。
吹き替え音声は映像の尺に収まれば表現出来る量が多くなるため、砕けた表現もあって自然な会話が飛び交います。ここでは一例を挙げてみましょう。
ちなみに文字起こしはツイッターで幾らかチェックを頂きました。ありがとうございます😭
ぴょん(-Bun)と兎を使った言葉遊び (第1話)
訳が作り込まれていて驚いた場面の例。
"ぴょん"がBunnyの"Bun"になってローカライズされているのが面白いですね。注釈を付けましたが、コテコテに作り込んだ訳になって
いてすごい。
*1 直訳すれば「一緒にその話に取り掛かろう」(=賛成)。hopで兎っぽさを出しています
*2 YuとYouの両方で取れるのが良いですね
*3 日本語より遠回しにかわしてますが、happyとhoppy (兎がジャンプする)を掛けた冗談になっています
*4 Honey bunnyは愛しい人を意味する熟語です。パンと言おうとしたら侑の返しに影響されたのかbunnyと言いかけて、慌てて言い直す英語版独自の下りです。bunny(兎)とbun(語尾のぴょん)とbun(バンズ・パン)が掛かってるのを含めてKoppe-panと訳さなかった理由かなと思いました
最後に敢えて場面切替後のフレーズを入れたのは、ちょっと聞いてよを表現する"Man,"が差し込まれるフランクさに目が留まったからです。
しずくに一喝するかすみ (第8話)
英語らしく言い換わってたりする例。
「私としず子の仲でしょ!」の下りはつまり「相談してよ」と言ってる訳ですが、吹き替えでは最初からそこを汲んでストレートに「本当に友達なら話してよ」と言い放ってます。伝えやすいように言い換えてるのを感じます。
この下りは"友達だと思ってたのに!"としている字幕の方が少し強さを感じますね。
また、日本語では単に「頑固キャラ」と呼ばれるしずくですが、吹き替えでは「今まで会った人の中で一番頑固」とまで言われているので大分手こずってる印象が強まります。
どのサンプルも英語が苦手な人はDeepLに掛けてみれば取り上げてない面白いポイントがあります。しずくに向けて隠したいならもっとうまくやりなよ(You'll need a better poker face)と言ってるところとか。
総じての話
翻訳の善し悪しは判断しづらいですが、英語は基本主語が入るので主張が強めに感じられます。一方で日本語だと間(ま)や表情で感じ取る部分も割と言い切るので読めてしまえばセリフだけで意図を理解しやすいです。
当然の帰結として、訳から新しい発見もあったりします。例えば8話でかすみが去ろうとする際、吹き替え版だけはかすみに押し切られる前にしずくが"Thank you"と伝えています。見知った物語で新鮮な思いが出来るのも吹き替え版の魅力です。
他方で、かなりナチュラルに話しているので訳なしではリスニングの教材としては難易度が高いでしょう。英語力が腐っていたのでPixelの文字起こしを活用しました。アニメで日本語を学んでる人の気持ちを垣間見た気がします…。
終わりに - グローバルを押すなら逆輸入もありでは?
改めて万人にお勧めできるものではありません。Eテレ版の高画質版が見たいとか、海外の人がどういう風にアニガサキを見てるんだろうと思ったりとか、いわば酔狂と探究心による部分が多めです。
今回収穫だったのは、吹き替え音声の声優さんが思ってた以上にニジガクしていることでした。
それは日本にいる我々が普通触れることができないものです。しかし海外の方々にとって吹き替えが虹ヶ咲の物語を伝えているわけで、ニジガクキャストと同様重要な役割を担っていると思います。総合マガジンを通してグローバルへアピールしている虹ヶ咲だからこそ、声を通して虹ヶ咲を表現している方々が他にいることは伝えたいなぁと思ってnoteに書きました。折角なら、英語学習の一環などで吹き替え音声を逆輸入して虹ヶ咲の橋渡しにする機会があっても良いんじゃないかなぁ…とか思ったりでした。
話題にしたくても出来ないのがもったいない( ´ω`)