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タルパ号小物観察ツアー【Mouthwashing感想】
未プレイでも読んで大丈夫な概要部分
きみはもうインディーズゲーム開発チーム「Wrong Organ」が2024年9月27日にリリースしたホラーゲーム【Mouthwashing】をプレイしたか?! していないならこの記事はネタバレや公式Q&Aでの発表とかを含む感想記事なので、まずは実際にゲームプレイしてから読むのをおすすめします。
私はローンチトレーラー時点で「これから明らかにろくでもないことが起こるだろうにその無暗に明るい掛け声は何?」「絶対無理がある」という雰囲気がお気に入りでなりませんでした。信じて買った本編も大変楽しめました。未プレイの方がこの動画で気になるならぜひ遊んでみて欲しいです。逆にホラーや鬱展開が苦手な人にはおすすめできません。当然と言えば当然だけども。
初見で通して遊んでも総プレイ時間はだいたい3~4時間ぐらいというのも忙しない現代人におすすめしやすいですね。充血した目玉ドアップがキービジュアルのゲームが本当におすすめしやすいのか? でも片目しか見えない大怪我した包帯男のビジュアルが好きな人間はたぶん意外といるのではないかね……?
ついでに比較的落ち着いている方のトレーラーも併せて紹介しておきます。要所で曲とか音がいいんでねこのゲーム。
タルパ号の背景や小物をじっとりと見つめよう!
感想記事を書き始めるぐらいにはこのゲームのことが好きになってしまったが、深い考察は他の方がたくさんやっているし、どうせならもう少し好き勝手な主題を据えて書いてみたい……すなわち、小道具や背景について。
棚に飾られた桃缶
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ラウンジルームの一人用の居心地よさげな空間で、棚に飾ってある桃缶。桃缶自体は衝突後キッチンの奥の方に同じパッケージのものが確認できるので、「この誰かが大事そうにしまっている桃缶も、どこかのタイミングで無残な姿になっているか最初からなかったかのように消えているのだろうなあ……」と思いながら進めていたがそうでもなく最後の方まで飾ってある。あれっ?
つまりこの桃缶は昔から空で、パッケージデザインを気に入ったクルーの誰かが飾っていたのかもしれない。人工甘味料の取得さえ船長権限が必要なタルパ号ではフルーツ(風味のなにかかもしれないが)缶はなおさら貴重でだろうし、その眺めを心の憩いにしているクルーもいたのかも。風邪引いたり体調の悪い日にもらえる缶詰フルーツってすごくありがたいものって認識なんですが、フルーツ缶のありがたさは国を越えて共通なのだろうか。
この辺で読んでいる方は勘づいたと思われますが、この記事はこういう本編のスクリーンショット(大量)と重箱の隅をつついて掘り起こして盛っていく文が延々続くぞ! 覚悟してくださいあるいはよろしくお願いします!
医務室のコルクボード
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深呼吸の方法、不安に対する声掛けの例が書いてあるなど看護ジャンルらしい掲示物がしっかり貼り出されている一方で、地球で撮影されたと思しき写真や、作業室で使われているものと同じ付箋紙のラクガキが張り付けてある。写真はアーニャの私物として、Q&A曰くyimpyがダイスケのラクガキらしいので、ほかの付箋もダイスケ作かも。右端付箋のかんたんポレがあんまりにもかわいい。これにはアーニャも思わず取ってあっても仕方ないのではないか!
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ポレの職場啓発ポスター
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ラウンジや船内廊下の各所に貼りだされているほか、幻覚シーンではポニー運送あるいはタルパ号という職場に対する嫌気の象徴でもあるという印象。ラウンジのポスターをチェックすると、ポレのありがたいお言葉と共に仕事への心構え、そして規則違反時の罰則が読める。この会社は隙あらばなんでもかんでも従業員の給料から差し引こうとしてくる。関係ない自語りになりますが、私も某モチベーションアップポスターを見る度にどちらかといえばちょっと憂鬱になる側の人間です。会社側もこういう啓発掲示物はほどほどにしてほしいものですね!
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あちこち目を皿にして眺める二周目でやっと気がついた要素で、後半の限界ジミー操作シーンの中ではポスターの嫌さもさらに悪化している。寝起きでマウスウォッシュを呷るんじゃない。
貨物室の注意書き
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作中の掲示物は翻訳されない部分も、拡大すると結構しっかり書きこまれている。これなんか最後の四行は翻訳されていないがほぼ読めなくてもだいたいでわかる非道内容なのでピックアップ。やっぱりポニー運送って暗黒ドケチ企業ですよ!! 潰れてよかったんだこんなブラック企業と思う一方で、潰れてしまったからマウスウォッシュ本編の悲劇につながってしまうわけでどうしようも……。
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寝室入り口
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船員の寝室に通じているドア。衝突事故後は泡で塞がれてしまうため中に入れず、船員は医務室から持ち出したマットレスをラウンジに敷いていましたね。ところでダイスケのコメントにもあったが、この寝室周辺にしかトイレがないとすれば冗談抜きで船員のトイレ事情は深刻だった可能性がある。船員の名誉のために、ゲームにはよくある省略をされただけでどこかの通路にトイレがあったと信じています。
貨物船の出入口
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事故後では完全に泡に覆われてしまうため、すでに極まっているタルパ号の閉塞感をもうひと匙ほど加えてくれる。貨物搬入口にしては小さいからそっちはまた別にあるのだろう。ここが開いていれば船外作業で修理の試みとかあったのかな~スウォンジーさんはやっぱりXLの宇宙服なのかな~などと書いてる途中で気がついたけれど、ここが塞がっていたら助けの船が来たところでどこから救助に入るんだ……より憂鬱な気分になる。タルパ号船員達は数ヵ月ぐらいはそれでも助けを信じていてえらい。
ダイスケ私物の携帯ゲーム機、箱型テレビ、共用ラジオ
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タルパ号の操縦インターフェースからしてそういう雰囲気だが、どれもこれも20世紀の産物っぽい。MouthwashingはSFはSFでも古い時代に夢想された宇宙空間の雰囲気が一貫しており、人類が宇宙進出までしているわりには庶民の生活レベルは良くはないのが察せられる。苦労しているよなみんな。ところでPS初代はさすがに21世紀入ってからだったよねと確認したら1994年発売でした。また受けなくてもいいダメージを負ってしまった。
ラウンジのボードゲーム(ルドー)
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ラウンジの人工窓そばの机にずっと置いてあるボードゲーム。船員達がヒマな時はこれで遊んでいると思うとほほえましいが、どう見ても4人用なので船員5名の誰か1名はハブられていることになる。無慈悲な偏見だが参加していないのはジミーだと思う、序盤カーリー操作中はコメントが聞けるがジミーは一切反応しないので。
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モクテル
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スウォンジーに飲ませる方じゃなくて、カーリーがケーキを作れる時についでに生成できる方。無駄遣いの実績解除のためにつくってみたが、使用機会がなくフラグ管理にも関わらないせいかずっと衝突前のインベントリに入っていました。おかげでカーリーが衝突間際までなぜつくったのか自分でもわからないモクテルを大事に持ち歩いているちょっとおもしれー船長と化した。自らの行動の責任が重いです。
ラウンジ、作業室、医務室各所の本棚
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本! それは長旅には必須の暇つぶしアイテム。タルパ号にどんな本が積んであるかは見過ごせませんね!
ラウンジの棚には題から推測するに冒険小説、画集や天文学を取り扱っているとおぼしき本が並んでいる。このへんはカーリーやジミーが読んでそう。あるいはポニー運送の支給……いやあの会社に限って娯楽の配給なんて余裕のあることはしないな、ジミーもそう言っていた気がする。絵画と小さめポレフィギアぐらいは元々飾ってあったかもしれない。
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ダイスケの私物らしきゲーム雑誌は寝床周辺だけでなくラウンジの片隅で机の上に放り出されている。どっちも表紙がクール。
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医務室の本棚には医学や解剖学といった本がしっかり並んでいる。一応、机の上には娯楽小説らしき本(WrongOrganが以前発表したゲームに関わってそう)も。
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作業室には当然工学系の本が並んでいる。この棚やツールラックの状態を見ているとアーニャよりもスウォンジーの方が整理整頓が得意かもしれない。さすが安全管理意識がキッチリしているベテラン。
医務室の鉢植え
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造花じゃないんだ?! 気がついた時は結構びっくりした。ラウンジの観葉植物は模造品のはず。こんな日の光もない船内で花を咲かせるまでそれなりの面倒をみていただろうアーニャの思いやりについて考えてしまう。そして物資の枯渇に怯えながら、世話もできず元気をなくしていく花を眺めるしかなかったアーニャの心境についても……あるいは、もう慮る余裕もなかったか。
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ポレ人形
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悪しきポニー運送が送り込んできた愛らしい仔馬くん。おそらく包帯男カーリーに並んで作品を象徴するマスコット。登場シーンも調べられるタイミングも多い、そしてジミーにいろんな比喩を背負わされる。
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誕生日会ではちゃんとパーティーハットも被せてもらっているし、帽子の中に乾杯用のコップまであるので、六人(匹?)目の船員に数えてもいいのかもしれない。あんな会社でもマスコットは罪はないとかわいがってもらっていたかも、ジミーはのぞいて。
健康な状態の彼に近づくとありがたいお言葉をもらえる、それも4種類ぐらいセリフがある様子だがヒアリング全然できないのでそれとなくまとめてあるところとか誰か教えてください……「責任を果たすよ!」とかずいぶんと皮肉になる発言をしているのはわかる。ポニー運送はこんなところに金かけているぐらいなら一航海中に使っていい甘味料を増やしてくれ。
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マウスウォッシュ
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この作品の虚無と徒労と絶望を象徴してくれるアイテム。進行につれ船にマウスウォッシュの空容器が散らばり満ちていくのは、はっきりと痛ましい。階段に落ちてるのは踏み外しそうで普通にこわい。
超音波スキャナー
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このアイテム概要を見た時の感情はどうしても書き残しておきたかった、終盤通しての「なんともできるか!!!」と逆ギレしたくなる気持ちをいつまでも忘れずにいたい。
背景からじっとりと見つめ返してきてくれる方々
ジミーの罪悪感の凝り。とてもじっとり!!!
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🧿『苦しみを祈る』ためには、まずその人を知っていることが前提
世の中には『人の心がわからないため人を深く傷つける展開』と、『人の心を理解しているからこそ人を深く傷つける展開』の両方があると考えていますが【Mouthwashing】は間違いなく後者でしょう。ゲームを遊んだ人間がどうすれば真剣にしょんぼりするか向こうも真剣に考えている。
タルパ号の船員達は全員、聖人でも極悪人でもありません。それなりの良心と、ありがちな欠点を持つただの人間です。カーリーはヤバそうな前兆に注意を払えないし、ダイスケは短慮で場に流されてしまうし、スウォンジーは日頃から口が悪いし肝心な時に酔っぱらっているし、アーニャは熱意と反比例して看護の才能が絶望的にない(Q&Aで医大試験8回落ちてるという情報より)。でもその点を責めるべきかって言われたらそうは思いたくない。それに完全無欠なんかじゃない方が親近感あるというか、感情移入しやすいよね。
常軌を逸した他責思考を披露してくるジミーでさえも、結局は自身の罪悪感に押し潰されています(最後は自己満足のために消費される罪悪感でもあるが)。これでジミーに反省の念が微塵も見えなければ理解不能の悪役だったんでしょうが、彼の考えなしの小心者っぷりはプレイヤーが理解できる範疇に収まっている、と感じます。奴に同情はあんまりしたくないんだけれど……でもこのゲームで一番の度し難い悪玉はおそらくポニー運送だからな!!
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素晴らしい物語には、やはり素晴らしい登場人物達が付き物! そしてこの作品の細かい作り込みには、船員達それぞれがどのような息遣いをしていたのか説得力を感じます。作り込みは台詞であったり、演出だったり、さりげなく背景に置かれた小物だったり。そして【Mouthwashing】はゲームです。舞台を歩き回りつつ自分の好きなタイミングで干渉、あるいは鑑賞できる利点があります。惜しみなく生かされた利点を私は愛さずにはおられず、こうしてまとめておきたかったんですね。
ところでこれはホラーゲームなのでプレイヤーが生理的にやりたいと思えないことも進行に必須にしてしぶしぶやらせてくる、ケーキカットとか。そういうここだけの体験も含めてゲームのいいとこだよね……。
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良い作品は二周、三周と見つめるうちに新たな発見があるものです。まあこのゲームを周回して背景を詳細に思いを馳せるのはこのゲームに没入できる人間ほど苦しい気もするが……安易に勧めるべきことでもないかもしれない。でもこのゲームの苦しみへの真摯さがとても好きになったからこそ記事を書いたのでね、難しい気持ちなんですねえ……。
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苦しみを祈る。
おまけ:アニャッピーとカーリーぼうや
What?(Steamのポイントショップを参照してください)
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Q&Aでおつらくなる船員個人情報を公開してくれると思えばすかさずおふざけもしてくれる様子といい作中では真面目なやつほど作品外ではハジケてくれる様相が個人的に最高にたまらねえですぜ!! wrong organ の次回作もたのしみ!!!
おわり
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