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カウンター席に座る愉しみ(ごはん・お酒編)

前回同様、「ひとりで座りたい、すてきなカウンター席のあるお店」について書いていく。
神戸以外もあるよ。

↓カフェ編はこちらから


続・ひとりで座る

みみみ堂(カレー/兵庫/県庁前)

前回から読んでくださった方は、「さてはカレー好きだな?」と気づかれた頃合いではないだろうか(大好きです)。

地図を見ながらでも迷ってしまいそうな細い路地にあるお店の前には、ぱきっとした原色、北欧の絵本のようなタッチの絵が描かれた看板。
ちいさな白いドアをそっと開けると、カレーのいい香りがふわりと漂ってくる。


5席ほどのカウンター席は、窓とは反対側の白い壁に面している。奥行きの浅い、低めのカウンターテーブルと小さな椅子。
壁にはいくつか鮮やかな色合いの絵がかかっていて、そのままだとのっぺりしてしまいそうなスペースに、軽快なリズムを与えている。
まるで小さい窓みたい。

ぜひ座りたいのはそのなかでも、いちばん左端の席だ。2階に登る階段の裏側にあたるスペースなので、まるで屋根裏の秘密基地にひっそりと招かれたよう。
また、横のテーブルに置かれた書籍をぱらぱらめくりながらカレーを待てる場所でもあり、空いているとラッキーな気持ちになる。


カレーはご飯とともに供されるけれど、いわゆる欧風カレーではなく、インドカレーを日本のご飯に合うよう仕立て直しました、という風情。
どちらかというと薄口でやさしい味付けながら、スパイスの香りがしっかり立っていて、匙が止まらない。

夏野菜のココナッツカレー

カレー自体はもちろん、付け合わせもおいしい。

歯触りのよい自家製ピクルスはよく見るきゅうりやパプリカのほか、うずら卵や大根、山芋などが季節に応じて小皿に彩りよくひしめき、テンションがあがる。

ご飯の上に乗っているキャベツのマリネは、ピクルスと同じような役割かと思いきや意外な立役者だ。
ピクルスが口の中をさっぱりリセットさせる役割だとすれば、キャベツはまさかの「味変」アイテム。
塩気とにんにくっぽい風味のきいたマリネ液をまとうしゃきしゃきのキャベツとごはん、カレーを一緒に口に運ぶと、パンチとさわやかさが同時にプラスされる。

カレーを食べ終わって一息ついたちょうどいいタイミングで、3口ほどの小さなデザートが差し入れられるのもうれしい。マンゴープリンとか、柑橘のシャーベットとか。


友人の家でもてなしてもらったかのようなあたたかな満足感を覚える、ほのぼのとしたお店だ。

さけやしろ(日本酒・創作料理/兵庫/三宮)

家族で一度訪ねてから、一人でも行ってみたい……と思い続けて、最近ようやく叶った。

神戸・三宮随一の繁華街(ちょっとあやしい雰囲気)から一本外れた通りにひっそりとある、日本酒がメインのお店。


お店を入るとすぐ角打ちスペースがあって、大きな冷蔵庫の中に大小の酒瓶がずらりと並んでいるのが見え、テンションがあがる。

奥にはちゃんと座ることのできる席も用意されていて、カウンターは3席ほどのちいさなもの。
目の前は一応調理台なのだけれど、メインの厨房が奥にあって、盛り付けのためのスペース、という感じ。料理の仕上げの「おいしい」ところを眺めることができる。後ろのテーブル席との境には間仕切りがされていることもあいまって、客席よりもむしろ厨房側の場所、という空気感がある。
なんだか、お店に匿ってもらいながらこっそりお酒を飲ませていただいているような感覚に陥って楽しい。


お料理は控えめなポーションのものが多くて、お通しもごく小さな器で何品か出るので、ひとりでも色々食べられるのがうれしい。
ちなみにこの日のお通しは「きんぴらごぼう、お漬物、骨煎餅」だった。完全に飲んべえ向けの布陣かつ、まずは生ビールが飲みたい人にも、最初から日本酒! で行きたい人にも優しい組み合わせに目じりが下がる。

おつまみは燻製の盛り合わせ(日によって中身はちがうみたい。その日はカマンベールチーズ、鯖、ほたるいか、たくあん)と穴子の一夜干し、お酒は「お米の味がするやつがいいです!」とお願いしておすすめしてもらった高知のものを。
旨味が飽和して咥内に渦を巻くような組み合わせだった。


びっくりしたのが〆のご飯もの。

「からすみチャーハン」という物珍しいメニューが気になって、味付けに少し使ってるくらいかな? と思いながら注文したら、出てきたのがこちら。


ひとくち食べてあまりのおいしさに
慌てて撮った写真

チャーハン自体の味付けにたっぷりとからすみが使われている気配がするのみならず、上にはぱりぱりに焼かれたスライスが5片乗っている。
おそるおそるその一片の、ほんの端っこをスプーンで砕いて口に入れると、香ばしい焦げ目の風味と一緒に強烈な海の香りが鼻に抜けた。

し、〆られない……! と咽び泣きながら日本酒をもう一杯頼んでしまった。〆ものという概念の解釈がおかしい(にこにこ)。

酒の大桝 本店(角打ち/東京/浅草)

新型ウイルスの流行前、浅草の有名な角打ち「酒の大桝」は、いつ行ってもにぎやかだった。
今はどうなんだろう。もうずいぶん東京に行っていない。


浅草・雷門の脇からするりと路地裏に入り込み、細道を抜けて見えてくるお店の入り口から、調理場とテーブル席の間、うなぎの寝床のように狭い通路を通っていちばん奥の奥、カウンター席にたどり着く。
席と席の間隔も、テーブルの奥行きも狭いその席は、たいていいつもぎゅうぎゅうに詰まっていた。後ろのささやかな通路を料理やお酒を持った店員さんが通りかかるたび、何人ものお客さんが我先に呼び止めて注文しようとするから、そりゃあ賑やか。親鳥の気を惹こうとする雛みたい。
静かで落ち着く場所ではけしてないけれど、陽気な喧騒に紛れてのびのびとひとりでいられる、そんな空間だ。


カウンター板の向こうはガラス張りになっていて、ぺたぺた貼られているおすすめメニュー越しに、浅草の路地をそぞろ歩く酔客が見える。
あぁ私も酔っぱらっていいんだわ、と安心する。


お酒、特に日本酒はほんとうに種類がたくさんあって、何回通っても飲みきれなさそう。
量があまり飲めないひとや一人客にとっては、グラスで半合を頼めたり、種類豊富な飲み比べセットが用意されているのも有難い。

お料理は、定番の居酒屋メニューも多いけれど、いわゆる「アテ」の種類の豊富さには目をみはるものがある。
クリームチーズの味噌漬けとか、自分で炙る干しホタルイカとか、粕漬けにしたベーコンとか。
蕎麦味噌とか、馬刺しとか、燻製たまご(毎回頼んでしまう)とか。


ほんとうだったらささやかなつまみ1〜2品で冷や1合をキュッと干してさっと出る、というのがこういうお店での「粋」なのだろうけれど、私はいつも豊富な種類のお酒と魅惑のアテに惹かれてついつい長っ尻してしまう、無粋な客だった。
ついでに言うと、立ったままお酒を飲むと十中八九脳貧血を起こす体質なので、角打ちの醍醐味である立ち飲みもできない。
そんな私でも隅っこで角打ちを楽しめる、懐の広さが好きだ。


お会計のためにレジへ行くと、併設されている(というかこっちがメインなのだ、本当は)大きな酒屋さんが目に入る。
さっき飲んで気に入ったお酒は、ここで買って持ち帰れるというわけ。

お酒のほかにおつまみも売られていて、今日は3,000円で済んだな〜とか思っていたらレジで倍額くらい払うハメになったこともあるので要注意である。
複数人のグループなら、ここで買ったものを持ち込むのも楽しそう。

YEBISU BAR The Grill なんばCITY店(ビアバー/大阪/難波)

お休みの昼間に映画を観に行ったあと、目に入ったのは燦然と輝く「YEBISU」の文字。もう少し映画の後の余韻に浸るため、と言い訳して、ふらふらと引き寄せられた。

(そのとき観た映画のことはこちら)

お店の真ん中にビアタップをぐるりと囲む円形のカウンターがあって、あそこに座るのかしら、と思っていたら、案内されたのは窓際にしつらえられた2席ほどのカウンター席だった。カウンターというよりは、普通のテーブル席を窓にくっつけたようなつくり。ほかの席とは間仕切りがされていて、半個室のような空間になっている。

唐突に秘密基地みたいな居場所を与えられ、ファミレスみたいにつるつるした大きなテーブルを独り占めして休日の明るいうちからビールをのむというシチュエーション。否応なしにわくわくしながら、ぴかぴかの大きなメニューを眺めた。
ヱビスバーやキリンシティといった、ビールメーカーが営むビアバーのメニューは、紙面から「うちのビールおいしいでしょ!!!!!」という社員の皆様の声が聞こえてくるようで、すみからすみまで目を通したくなる。


↓関西にもできてほしい、よなよなビアワークス

↓アサヒの「フラムドール」も、アサヒビール本社のお膝元という特別感が好き

YEBISU BARは、ヱビスのロゴにちなんで真鯛をつかったおつまみを推してるみたい。なるほどなるほど、と頷きながら、前菜盛り合わせとフィッシュアンドチップス(これも真鯛らしい。贅沢)を注文。

ビールはお馴染みの銘柄から、アンバーやスタウトなど少し珍しいものもあって目移りする。
ほかのお店でも飲めるんだけど、と思いながらつい最初に頼んでしまったプレーンなヱビスビールの、泡のふわふわ加減に驚いた。メーカーの矜持にかけて注がれたビールの泡は、こんなにも滑らかになるのね。
シルクのような泡とキリっと冷えた液体が、ほどよい割合で同時に唇の間へすべりこんでくる感覚に、おいしいビールってこういうものか、という気持ちになる。


幸せを液体にしたような金色のビールを啜りつつ、目の前の窓から外を眺める。このお店は1階にあるので、外を歩く人たちの姿がすぐ近くに見える。日がさんさんと差し込むショッピングモールの中庭を、家族連れで、カップルで、友達同士で、あるいはひとりで、思い思いに行きかう人たち。申し合わせたように、大きな紙袋を手にして。

たまに、こちらをじっと見ながらお店の前を通り過ぎる人もいる。日の高いうちからそんなことをして、という非難なのか、いいなあ、自分も飲みたいなあと羨む気持ちなのか。自分に都合よく後者と解釈して、ふふふ、と思う。こちらは楽しいよ。そちらも楽しそうだね。

カウンター席は愉し

外食の喜びを増幅させる舞台装置、カウンター席。
これからもどんどん開拓していきたい。
みなさんのおすすめも、よければ教えてください。

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