CLILとは〜新しい英語教授法〜

 CLILとは、Content and Language Integrated Learningの略です。「内容言語統合型学習」と訳されます。すごーく簡単にいうと、英語で他教科の内容をアクティブ・ラーニング形式で扱うスタイルの教授法です。

 指導対象は英語だけじゃない、と考えるのがCLILの特徴です。「4つのC」と言われてまとめられることが多いです。以下1つずつ説明します。

Content [内容] ... (英語で扱う)内容について教えます
Communication [コミュニケーション] ... 授業内で行う外国語のコミュニケーションの方法について教えます
Cognition [思考] ... ただ知識を覚えるだけじゃなく、それを使うことで深い思考を促します
Culture / Community [協働学習] ... みんなで一緒にまなぶにはどんな点に気をつけるといいか指導します

 やることたくさんですね(笑)これがCLILのだいたいのイメージです。以下1つずつ見ていきたいと思います。

Content [内容] について 

 つまり「英語で何を教えるか」という項目です。言い換えれば、CLILでは「英語を学ぶ」だけではなく「英語で学ぶ」ことを目標にしているということです。

 「他教科の内容を教えなきゃいけないって大変そう」と思われるかもしれません。しかし、教える内容に教科知識を絡めてしっかり深めると、授業そのものに深みが増すなと私は感じています。

 たとえば「途上国の貧困問題」について扱う英語の長文とかありますよね。教科書に載っているような貧困問題の長文を読んで、あぁかわいそうだなぁで終わっても英語の授業なら良いと考えることもできるかもしれません。でもそれだと途上国の貧困問題はいつまでたっても生徒たちの生活からは遠いところにあるままです。

 ただここに社会の教科知識を入れてみると、ちょっと見え方が変わってきます。公民分野の物流の知識を加えれば、途上国の貧困問題と先進国のくらしのつながりが見えてくるでしょう。地理分野や歴史分野の知識があれば、その産業構造のゆがみの原因が見えてくるかもしれません。

 このように他教科の知識を入れることで、英語の授業で扱う内容に対してより深く考えることができるようになります。「いやそういうことは社会のほうでやってくれ」「英語の授業は英語だけをやる時間だ」と思われるかもしれませんが、英語の指導上他教科の内容を入れたほうがいい理由はほかにもいくつかあります。

 ひとつはtechnical term (専門用語) が学べるという点です。たとえば上記の例でいえば、公民分野の学習をすすめるにあたってlogistics(物流)というtechnical termは必須になると思います(ちょっと簡単すぎるかもしれませんが)。そういった「特定の単元を学習する際に必須の語彙」の学習を積み重ねることができるのは、CLILの特徴のうちの1つと言っても良いと思います。

 そしてこのtechnical termが重要になってくるのが、ご存知留学時に必須のTOEFLです。つまりCLILを繰り返すことで、生徒たちにとって留学という選択肢がぐっと身近になるのかもしれません。あと意外と早慶レベルの入試問題にはガンガン使われていたりします。入試でいえば最もこの傾向が顕著なのが一部の医学部ですよね。「医学部用の単語帳」なんていうのが出されているくらいです。technical termやそれに関連する社会情勢などへの理解が英語の入試であっても大事だからこそ、リンガメタリカのような単語帳が人気なのかもしれませんよね。

 ほかにも「他教科の知識や概念を入れ込むメリット」は色々あります。例えば、他教科の知識や概念をもとに授業が深まってしっかりと現実の問題にアプローチできるようになればなるほど、人によって考え方が違ってくるような問題にちゃんと向き合うことができるようになりやすくなります。たとえば途上国の貧困問題を物流という公民単元のレンズを通して見れば、私達の購買行動がどうあるべきかを各自が考えることができるようになるかもしれません。

 このように「題材に対して学習者が当事者性をもって考えることができるかどうか」は、学習に対する生徒の主体性を大きく左右すると言われています。これを「学びのauthenticity(真正性)」と呼び、CLILでは重要視します。このauthenticityを高めるためには、他教科の知識や概念を積極的に応用することが案外近道なのかもしれません。

 他教科の先生のように、網羅的にいろいろな知識を講義しなければならない!ということではありません。英語の教科書で扱われている長文の内容を深めるために、関連する教科の概念的なキーワードと事例を紹介するだけでも、ぐっと授業に深みが増し、CLILっぽくなりますよ!ということです。

Communication [コミュニケーション] について

 この部分はわかりやすいですね。簡単にいえば「英語を教えるってことが指導内容に入るよ」ということです。ただこれが「コミュニケーション」という名前になっていることがポイントです。つまり「生徒同士のコミュニケーションを助けるという文脈で、英語を教える」ということになります。

 どういうことかというと、さっきの「物流」の例で考えてみたいと思います。国を超えたモノの流れを説明する際、どんな英語が使われるでしょうか。おそらくimportやexportという単語は必須ですよね。なのでこの語彙を生徒が知らないと思ったら、CLILのなかでは明示的に指導するわけです。この指導の流れを言葉で説明すると、「物の流れの説明を理解するのを手伝うために、関連する語彙を指導する」ということになります。まさにコミュニケーションのための英語指導になっていますよね。

 さらに国境を超えたモノの流れをクラスメイトに説明するというタスクを課したとします。そのときにはどんな文法を使うでしょうか。おそらく受動態をよく使うことになるかもしれません。そしたら「物の流れの説明を英語で行うのを助ける」という文脈で、受動態の復習をするのもいいかもしれません。

 そして最終的に「自分たちの生活と途上国の貧困問題が、物流を通してどのように関連していると思うか」を英語で発表してもらうとします。そうするとThenやAfter thatなど、段階を説明するようなフレーズが役に立つでしょう。あるいはcauseやlead toなど、因果関係を示すフレーズも使えるかもしれません。また「途上国の貧困問題の解決に貢献するために自分ができることが何かを考えて発表しよう」などというタスクを課したら、接続詞のifやwhenはかなり使えるでしょう。

 このように「生徒がこなすタスクの達成を助ける」という文脈で、英語を指導していくことになります。そしてそれは生徒たちのコミュニケーションを助けるための英語指導という文脈になっていきます。

Cognition [思考] について

 これは「ブルームの思考分類学」で捉えられることが多いです。以下の図に馴染みがおおい先生も多いのではないでしょうか。

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 下の3つを「低次思考(Lots)」、上の3つを「高次思考(Hots)」と呼びます。このLotsからHotsに持っていくことを目指すのもCLIL授業の目的だ、ということです。

 先程の「物流」の例で見ていきましょう。まず生徒たちはlogistics / import / exportなどの用語を覚えて、その概念を理解します。しかしそれだけではなく、次にその概念や知識を適用して現実の問題を説明したり、その現実の問題を自分なりに評価したりします。あるいは自分なりの解決策を創造したりすることになるかもしれません。

 これがCLILの「思考」の部分です。すごく簡単にいえば「知識を覚えてはいおしまいじゃなくて、それをちゃんと使って自分なりに考えたりすることができるタスクをやろうね」ってことです。

Culture / Community [協働学習]について

 これが一番捉えづらいかもしれませんが、簡単にいうと「自分がどの領域のなかで学んでいるかを意識しようね」という学習ターゲットです。以下の図をご覧ください。

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 これは上智大学の池田先生によって示された図です。このうちどこに生徒がいるのかを意識できるような学習にしましょうということです。ちょっとわかりづらいかもしれませんね。1つずつ見ていきましょう。

 まず円の中心にあるのがclassroom(教室)です。教室で学んでいるということはそこに同級生や先生がいるわけですね。そのひとたちとのやり取りを通して学びましょう、ということです。わからなかったら助けを求めたり、他の人の意見を聞いたら新たな疑問を提示してみたり...といったことを促すのは、CLILではCommunity / Cultureに分類されるということです。ここはVygotskyやDeweyやBanduraが言っていることを色々と引用しながら詳しく説明していきたいところですが、ものすごく長くなってしまいそうなので割愛します(笑)

 円はclassroomから徐々に広がっていき、schoolからworldへと広がっていきます。これはつまり「学んでいることは教室で完結することじゃなくて、世の中とかかわっているんだよ。それを意識してね」ってことです。先程の「物流」の例でいえば、logistics / import / exportといった知識や概念が、彼らの住む社会とどう結びついているかを考えるタスクを教師は課していきましょう、ということになります。これは「学びの真正性(authenticity)」とも関連します。真正性とは、簡単にいえば「学んでいることと自分とのかかわりが明確かどうか」ということです(ほかにも色々定義はありますが)。一般的に学びの真正性があればあるほど、生徒は主体的に学習しやすいと言われています。つまり「知識を知っているままで終わらせず、それと関連する身近な問いについて考えることを生徒に求めていけばいくほど、生徒たちは主体的に学習するようになる」といえるかもしれません。

まとめ ... Integratedがキーワード

 4つのCをひとつずつ分けて説明してきました。しかし本質は「生徒の主体的で対話的な深い学び」のために、それぞれの要素が相互に関係し合っているという点にあります。なのでCLILはIntegratedという言葉を使っているわけです。この点がCBIやイマージョン教育と大きく異なる点だと思います。

 学習指導要領が変わり、中高で「主体的対話的で深い学び」を目指していくことになりました。そのためのひとつのあり方がCLILなのではないかと思います。参考になりましたら幸いです。

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