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60歳からの古本屋開業 第1章 激安物件探索ツアー(7)新たなる希望

登場人物
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
キース 不動産屋案内係


隣の駅の物件

 15分と聞いていたが、駅には12、3分で到着した。
 不動産屋さんでキースに私たちの連絡先を渡し、
「家主さんにお話しいただいて、条件が合うようならご連絡お願いします」
と言い残して店を出る。
「赤羽さん、実はね、この隣駅にも2万5000円の物件があるんですよ。ネットに載ってました。管理する不動産屋さんがあるのは別の駅で、そこを訪ねるのは面倒くさいから、今日は外観だけ、ちょっと見てみますか」
「あぁ、行きましょ、行きましょ」
 店から数十メール先の改札から電車に乗り、隣駅に移動する。
 着いたのは、私が住んでいる駅。物件は自宅とは駅の反対側にあった。
 住所と物件名がネットに公開されているので、マップアプリにコピペするだけで道案内までしてくれるのだから、便利になったものである。
 3件目の2万5000円は、意外なほど駅から近く、駅からたった7、8分の距離にあった。
「え? なんか普通じゃない? 普通のアパート。これ2万5000円なの?」と赤羽氏。
「そうなんですよね、あの2階。広さは1K。キッチンが3畳で風呂なし。角部屋ですねー。窓が道路側と脇にもありますね。建物は古いけど、それほどでもないし。へー。何でだ? これアリですよね」
 それはこんな物件だった。

へー。何でだ? これアリですよね。
これ、2万5000円なの?

 実際に中を見せられたら、何かしら2万5000円たる事情がわかるかもしれないなー、などと思うものの、
「まだ探せばあるのかも」
と、ちょっとだけ救われたような気持ちになって駅まで引き返す。

「気づき」が、もたらされた

 駅に通じる道は途中、線路際を通っている。
 この路線は高架線化が全く進んでおらず、線路から細い道を挟んだだけの近さに家やアパートが建っている。
 電車が通れば、かなりの騒音となるはずだ。
「あ、そうか! 別に暮らすわけじゃないんだから、こういう線路際のうるさい部屋もねらい目かもしれないですね」
「そうかそうか、その手はありますね。騒音、関係ないですもんね、それいいかも」
 先ほど目のあたりにした辛めの物件のイメージを払しょくするように、二人はそのアイデアに喜び合うのだった。
「あ、わかった! 今の物件、なんで安いのか、わかりましたよ。お風呂屋さんがつぶれたんですよ、ここから5分くらいの場所にあったお風呂屋さんが半年くらい前に。もうこの駅で歩いて行ける範囲には銭湯がなくなっちゃいましたから。だからじゃないかな。風呂なしの部屋で歩いて行けるところに銭湯がなかったら、住めないですよね」
「たしかに、それはつらいわ~。さすが、地元情報」
「これからは、そんな物件を探そう」「そうだそうだ」と、先ほどまでの落ち込んだ気持ちを晴らすように、おやじ二人は励ましあいながら、
「軽くやりましょうか」
と、駅前の昼飲みできる居酒屋へと向かうのであった。 

(第2章に、つづく)


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