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なぜ、未亡人は美しく見えるのか? Chapter 1  世の中は「色」仕掛けに溢れている(1)

なぜ、未亡人は美しく見えるのか

色気のウラに色がある?

色の話といえば、やはりこの話を抜きに進めることはできないでしょう。
そう、「色気」について。
世の中で一番色気のある存在といえば?
いろいろご意見はあると思いますが、
「色気」業界の一角を占める永遠の存在といえば「未亡人」ではないでしょうか。
それも、夫に先立たれたお葬式での未亡人は、
「ウチのカカァにも早く未亡人になってもらって、酒の一杯も注いで欲しいもんだね」
といった落語があるくらい、その色気力は古くから衆目の一致するところです。
しかしなぜ、未亡人は、あんなにも色気があるのでしょうか。あんなにもこちらの胸に、グッと迫ってくるものがあるのでしょうか。
夫に先立たれた女性。一人残され、不幸そうな境遇にある女性をなんとかしてあげたい、そんな気持ちが男たちの心に働く、というのもあるでしょう(実は内心、やっかいな亭主が死んで喜んでいる女性もいるのかもしれませんが)。
あるいは、この人の夫の席はいまや空席、その席にちょっと腰掛けてみたい、そんな下心も男性の胸に熱く響いてくる理由かもしれません。

しかし、実はこうした心理的な魅力とともに、未亡人が美しく見えるのには、色の効果というものが大きく働いてます。
未亡人が着ている喪服、この黒い色こそが、その人を数段、魅力的に見せているのです。
黒に対してみなさんどのようなイメージをお持ちでしょう。たとえば、黒い色を見て、皆さんが連想する事柄とは何でしょうか?
「夜」「カラス」「ハイヤー」「髪の毛」「靴」
このような具体的なモノを連想する一方で、いろいろな人生経験を積んだ大人の方々の頭にはもっと抽象的、イメージ的なキーワードも浮かんできます。
「死」「孤独」「葛藤」「沈黙」「重厚」「豪華さ」
こうした、モノ以外の、状態や現象の連想です。
つまり、喪服を着た黒髪の女性は、黒を全身にまとった瞬間に、孤独感を漂わせ、葛藤に心を震わせ、死を見つめながら沈黙し、重々しく、それでいてどこが豪華な雰囲気を周りに与えることになるのです。
もちろん黒色から想像されるイメージは、これ以外にもたくさんあります。
「不気味」「悪」「男性的」「拒絶」「絶望」
これらも、黒から多くの人が連想するキーワードです。
しかし、先ほどの未亡人の置かれた(夫に先立たれた不幸そうな女性)といった状況が揃うと、想像たくましい男性の胸中には、黒の持つ魅力的(自分の思いに都合の良い)な側のイメージが、連想として次々に引き出されることになります。

さらに決定的な効果がもう一つ。
黒の持つ「額縁効果」です。
黒に囲まれたものは、他の色に比べて締まった印象になり、グッと引き立つ効果があります。引き締まってこちらに迫ってくる。
ただでさえ、孤独で重厚で豪華な存在が、キリッと引き締まって迫ってくるわけですから、心がさわがないわけがありません。

産業界で活躍する「未亡人効果」

この額縁効果、いわば未亡人効果は、未亡人の専売特許ではなく、実はさまざまな分野で利用されています。
代表的なのはテレビです。家電というのは、だいたい白物(シロモノ)家電といわれるくらい、白を基調とした色の製品が多いのですが、ことテレビに関してはほとんど黒かそれに近い色が使われています。
実は、これも未亡人効果(額縁効果)を狙ってのことです。
画面に映る映像を、黒い枠を付けることで、ぎゅっと締まらせ、こちらに迫ってくるような印象を与えています。この効果を出すためには、黒以外ではダメなのです。

この未亡人効果、テレビ以外にもさまざまな場面で使われています。
たとえば和食のお膳の色です。和食といえば、黒の漆調の食器が思い浮かびます。
この黒い器の真ん中にお刺身などを配置します。すると、それだけで、立派な料理の一品として成り立ちます。しかし、この一皿が料理といえるのは、単純にお刺身の美味しさだけではありません。未亡人効果が見事に発揮されたケースです。

想像してみてください。お刺身の切り身が三、四切れほど、普通の白いお皿にただ載って、目の前に置かれている姿を。これで700円などといわれたら、少々納得いきません。しかしそれが黒い和風のお皿に載っている切り身三、四切れだったとしたら。素直に700円くらいなら払ってしまいそうです。
お正月のおせちのお重などもまさにこの効果です。色とりどりの料理を黒枠で一気にまとめて引き締め、お正月に相応しく、重厚、豪華に見せています。
白いお重や、子どもが喜びそうなピンクのお重をほとんど目にしないのも、黒の劇的な効果がどうしてもおせちには必要だからなのです。

こんな職業の方にも未亡人効果

実はこの効果をたくみに利用している人たちがいます。
政治家の先生や大企業の社長などです。
この方たちは、とにかく外見において権威、威厳というものを必要とし、また好んでもいます。そういう方というのは、本能的に「黒」が自分を偉く見せてくれる、ということがわかっています。
「重厚」
「引き締まって」
「迫ってくる」
まさに黒の持つキーワードは、政治家や社長が欲しいイメージです。
たとえば、政治家や社長が乗っている高級車。公の匂いがちょっとするような車は、例外なく黒です。
そもそも車など、移動の手段と考えれば、公でも個人でも何色でもいいはずです。
自家用車では、好みでいろんな色の車に乗っている人がいるのにもかかわらず、こと、この車だけは断固として黒。議員の皆さんなど、選挙活動中などは好んで白い色にばかり乗っていたのに、そんなことさえすっかり忘れたように黒ばかりを選びます。
たとえば、明るい緑色などは、清潔でさわやかそうな感じがして良いと思うのですが…。でも、偉い社長さんが帝国ホテルなどから出てきて、緑色のクラウンが横付けしようものなら、大変な文句が出ることでしょう。少なくとも、
「キミ、緑色の車というのは、あんまりなんじゃないかね。黒にしたまえ、黒に」
というようなお小言が聞こえてきそうな気がします。
そんな社長さんに、勇気ある方が、
「なぜ、緑ではいけないんでしょうか?」
などと聞いたら、社長さんも「う〜ん」と答えに詰まってしまうか、
「いいからいわれた通りにしなさい、だいたい軽いじゃないか、緑というのは!」
などと答えが返ってきそうです。
確かに緑は軽く、黒は重く見えます。社長たるもの、軽いというのは困ります。これも、自分が黒のおかげでずいぶん重厚に見えている、というのが本能的、感覚的にわかっているゆえの文句ということなのでしょう。

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