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60歳からの古本屋開業 第8章 先輩からの仕事の話(2)小唄通信講座の企画を立てよ。

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ
秋山(あきやま)氏 夏井の元上司。天才的人たらし


Apple書房5万円プロジェクト。

 秋山氏から声をかけられた小唄の通信教育プロジェクト、題して『「目指せ!月5万円」Apple書房開業資金稼ぎへのロング&ワインディングロード』、略して「Apple書房5万円プロジェクト」はいつものごとく、我が家での企画会議から始まった。
 秋山氏からの依頼内容は、
・小唄通信講座
・この講座開講を起点に、新しい世代20~40歳代に小唄の魅力を訴求する
 この2つに関しての企画を出すことだ。

 まず最初のミッションは小唄通信講座の企画である。
 小唄通信講座の企画の販売対象は、50歳代から上が中心。そろそろ生活にゆとりや時間ができるお年頃の方々に向けて、粋で高尚、さらに背景となっている時代的な知識まで身につく最高の趣味、そのまず最初の一歩として、この通信講座を進めていこう! というもの。

通信講座の運営って、どうなってるの?

 通信講座は主に以下の三つの要素が協力し合って成り立っている。
 まず、通信講座運営の主体となる通信教育の会社。広告などで会員を募集・集客・販売する。……(1)
 こうした会社は、たとえば囲碁教室や習字教室などを運営する場合も、専門の講師を社内に抱えているわけではない。
 教材作りや添削(会員から送られてくる課題などの評価や指導)のシステムづくりについては、その分野の社外の専門家、専門の協会などと協力して進めていく。……(2)
 さて、どんな科目の通信教育を始めるか? この企画自体も通信教育の会社に外部から持ち込まれ、その外部が協力会社・協会との橋渡しも含めて進めていくケースも多い。その外部というのが、企画会社と呼ばれるものだ。……(3)
 この通信教育の会社(1)に「小唄講座」企画を提案し、さらに小唄協会(2)に協力をお願いする橋渡しを、私の先輩、秋山さん(3)が行っているわけだ。
 そして秋山さんは、その企画部分を私たちに依頼してきたという次第(つまり、私たちは3の下請けですね)。
 もともとその昔、秋山氏と私は同じ会社の上司と部下であった。会社で私は、雑誌や書籍の様々な文章の企画、編集、執筆を行うとともに、秋山氏が持ち込む様々な案件の企画も立てていた。当時の編集屋さんは、紙媒体であれば何でもかんでもこなしたのだ。
 この関係はお互いが元の会社を辞めてからも続き、今回も声をかけていただくことになった。そして私はすかさず赤羽氏を引っ張り込んでApple書房の企画として遂行していくことにしたわけだ。
 ちなみに小唄の世界に精通し、会員をまとめる協会には様々な流派が大小のプロレス団体のように存在している。
 その中で会員数(教室や師匠の数)の多い、大きな団体は二つ。
 秋山氏はその中の一つ「日本小唄協会(仮名)」の理事長と天才的コミュニケーション力で知り合いとなるのはもちろん、がっちり会長に気に入られ「秋山君がやるなら協力惜しまず!」の言葉までいただいて、企画を通信教育の会社に持ち込む段取りを整えたのだった。
 もし通信教育がうまく軌道に乗れば、そこから会員を対象にしたさらなるイベントや、たとえば新規会員獲得のための企画や、通信教育の受講生を実際の教室に導くための企画など、活動の場を広げていくことも可能になる。そうなれば、月5万円程度の収入も決して無理な話ではない。「目指せ5万円!」は、つまりそんな目論見も含めての話だった。
 運営は通信教育の会社。
 企画や教材の開発は秋山氏の会社。ここにくっつく私たち。
 添削や教材開発に関しての資料の提供、技術指導は協会。
 こうしたタッグの中で進めていくのだ。

さあ、企画のアイデア出しだ!

 さて、私たちの役割である企画立案、アイデア出しの話に移ろう。
「小唄の企画を考えるぞ!」などと当然のようにお話してきたが、私たちだって小唄なんてほとんど知らない。
 お座敷で芸者さんが三味線をつま弾きながら唄い、客はその姿を「うむうむ」などと目を細めて愛でながら、目の前の料理が乗ったお膳から小さなお猪口を取り上げる。
 すると脇に控えていた超美人の芸者さんが、体をちょっと斜め加減にお客に少しもたれかかるように身をあずけながら盃に酒を注ぐ。
 客は小さく「よしよし」と小さく頷くように顔をほころばせ、くいっと杯を傾ける。
 カメラはその座敷のある離れの外側からの風景に切り替わり(いつカメラが入ったんだ!)、障子に浮かび上がる芸者と客の影。静かに流れる小唄の音色。宴は静かなざわめきとともにまだ続く。かっこーん。ししおどしの音が夜の空に響くのであった。
 なんて妄想が浮かぶくらいのもので、つまり何も知らない。
 しかし、それでも企画はできてしまうのである。
 だいたい広告代理店だって、車や歯磨き粉やビールの広告を作っている人はいても、車や歯磨き粉やビールの専門家などはいない。
 要は、その商品の魅力がお客さんに伝わり、買いたい、飲みたい、やりたいにつながればよいわけだ。
 そのために商品をちゃんと勉強することは必要だけれど、幸いなことに最近はネットを探せば、いろいろなことをしっかり教えてくれる。
 もちろん小唄に関しても実にいろいろなサイトが存在し、その一つ一つがさらに多くの方々、特に新しい世代の方々にも小唄の世界を知ってもらおうといろいろな努力をされている。
 小唄を全く知らない方々に、その歴史や基本的な技術などを動画も駆使して伝えているサイトも数多く存在している。
 私と赤羽氏はこうしたサイトを約一週間ほどかけて勉強した後、次の週、お互いにアイデアなどを持ちより、小唄教室カリキュラム作りの会議を開催したわけだ。
 我が家のリビングには当然おつまみと酒は用意してある。しかし宴会前の2時間、酒なしの仕事モードでアイデアをまとめてしまおうと、いつになく真面目な態度で臨むのであった。

えー、古本屋の話をしていたはずが、変な脇道にそれてしまって恐縮です。これも古本屋への道。実際にこんなことをやってきたので、ライブストーリーとして書かないわけには行かないのである。もう少し先で本題と結び付きますので、もう少しご辛抱ください。

※記事上の「小唄の通信教育」というものは実在しません。あるいはまた実在のものとは全く関係ありません。また記事上の「小唄の協会」は実在しません。あるいは実在の団体とは全く関係ありません。

(つづく)


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