変な人 (42)近所の銭湯、セクシーパンツ男。
風呂屋で出会ったその男は、大変におしゃれなパンツをはいていた……。
それはつい先日、隣の駅の風呂屋へと出かけた時のこと。
久しぶりの銭湯である。
「520円か。けっこう上がったような気がするな。でも、こうして営業してくれているのだから、ありがたい」
いつものように身体を先に洗い、家ではあり得ないくらいの熱いお湯にゆっくりとつかる。
「やっぱり銭湯はいいなー」などと思いながら、脱衣所に向かう。
小さな庭に面した20畳ほどのその脱衣所には、先に上がった80歳くらいのおじいさんが木製ベンチに腰掛けて涼み、もう一人、30歳くらいの男が裸でロッカーに向かって立ち、服を着ようとしていた。
私はタオルを絞り身体を拭きながら見るともなく、その30がらみの男の背中の辺りに視線を向けていた。
これからまさにパンツを履こうとする男。
「ん?」
男の動作がちょっと不自然だった。
パンツを広げて片方ずつ「すうっ、すうっ」と足を通していく動作ではない。
手にしたパンツに顔を寄せ、絡んだヒモをほぐすような動作をしきりにしているのだ。
男の手にあるパンツは、ちょっとユニークな形状をしていた。
小さくたたんだハンカチのような布の部分から、ぴらぴらと複雑にヒモが伸びているのだ。
すると男は、探していたものを見つけたように、ちょっと太めのヒモを両手の指でつまみ、「ふりふり」と少し揺らす。
絡み合っていたヒモがほぐれ、小さな布からふんわりと垂れさがる。ようやく本来の形が現れた。
そう、それは小さな布とヒモでできたパンツだったのだ。
男はヒモとヒモの間に起用に足を通し、ちょっと太いヒモ部分を腰まで上げていく。
小さな布部分は男の局部を覆い、そこから伸びるヒモ部分は、まるで鉛筆でパンツの絵を描いたように尻の部分を覆っている。
覆ってはいるが、線画であるから尻のすべては露出されている。
「これはもしや、男のストリップショーなどで使われていると噂の、あのセクシーパンツというやつか!」
しかし、「女たちがキャーキャー歓声を上げる」と言われるセクシーパンツを着用するその男のありさまが、あまりにもイメージと違う。
髪は風呂上がりなのに、少しもしっとりしていないボサボサ状態。
推定身長160センチ前後の身体は明らかに運動不足が原因で緩み、肌はクスみ、背中は丸く、男から見てもセクシー度マイナス150%くらいである。
自分も着替えるような素振りでロッカー方面に歩き、少しだけ男に近寄ってみる。
おや? 想定していたセクシーパンツとは、どこか、なんとなく違う。
改めてパンツ確認。
そして、気づいた。
驚いたことに、セクシーな物件に見えたそれは、実はごく普通のただのパンツであった。
いったい何年使用された結果なのであろうか。
それは、尻周辺の布が擦り切れて、結果的にパンツの輪郭だけが残っただけの、非常に残念なセクシーパンツだったのである。
「パンツくらい、買えよ~!」
今時100円ショップにだってパンツは売っている。
520円の銭湯に来る前に、パンツの1枚くらい買えるだろう。
男はヒモパンの上に明らかにパジャマの下とわかるズボンをはき、よれよれのTシャツを着て何事もなかったかのように出ていったのだった。
男がそれでよいのだから、仕方がない。