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変な人 (33)大江戸線、おばさんパワーの犠牲となった「ヒザの上のおじさん」
ヒザの上のおじさんが、今回の主人公。
だが、変な人ではない。被害者である。
何も悪いことなどしていないのに、多くの人に笑われてしまった可哀そうなお方でもある。
それは大江戸線の車中で起こった。
おじさんは荷物を網棚に乗せ、ごく普通に吊革につかまっていた。
私はその隣で同じように吊革につかまって本を読んでいた。
駅が近づいてきたころ、おじさんの目の前に座っていた女性が荷物を持ち直し、降車のために立ち上がった。
自分の前に空いた席。座る権利は当然おじさんにある。
それは衆目の納得する位置関係であった。
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おじさんは網棚に置いてある自分の荷物を下ろし、「よっこらしょ」とその席に腰掛けようとした。
まさにその時だった。
凄まじい速さでおじさんの尻の下に移動する何かがあった。
そう、おじさんの隣の、やや離れた位置に立っていたおばちゃんである。
おばちゃんは、おじさんがその席に座るべく粛々と段取りを進め、後ろを向いて半分腰を落とし始めた「よっこ」のあたりで、斜め手前から身体にひねりを加えつつ、先に座席に飛び込んだのだった。
おじさんは、まさか自分の尻の下を、すでにおばちゃんが占拠しているとは気づかず「らしょ」の動作を続ける。
当然おばちゃんのヒザの上に、ちょこんと腰かけることになるおじさん。
とっさに違和感は感じたものの、それは彼のこれまでの人生で経験したことのない感触だったのであろう。
一瞬何が起こったかわからないおじさん。
おじさんがおばちゃんのヒザの上で過ごした時間は0.5秒程度だっただろう。
不愉快そうに顔をしかめるおばちゃん。
その膝の上で何が起こったのかわからず驚くおじさん。
そして慌てて立ち上がり、なぜこんなことになったのかまだ理解できていないでいるおじさん。
それは、目の前で目撃した吊革仲間5、6人にとって強烈すぎる風景だった。
「あぁ、可哀そうに。あぁ可笑しいよー」
しかし目の前、わずか50センチほどしか離れていないそのおじさんの哀れな姿を笑うことはあまりにも失礼である。
パンパンであった。
笑いたくて笑いたくて、あとからあとから笑玉が腹から攻めあがってくる。
でも、笑ってはいけない。
可笑しいのに笑えないことが、これほど体力を使うものだとは思わなかった。
それから3駅。
気まずそうなおじさんと、すでに寝ているおばちゃんを残し、私はくたくたになって下車したのだった。
今回は変な人でなく、変な出来事のお話でした。