60歳からの古本屋開業 第5章 第1回 Apple書房 最高経営企画会議(4)
登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ
蔵出しコンテンツ
次の日から(当日じゃないのが、怠け者の証拠)、さっそく時間を見つけては、昔の書籍のために書いた原稿をパソコン内で探し始めた。
改めてこんな作業をしていると、当時の本を書いたときの大変さや面白さ、出会った人のことなども思い出す。
そして書籍が完成し本屋に並んだ時のおしっこチビリそうなうれしい気持ちもよみがえる。
絶版かー。切ないような悲しいような。
これらを次々とnoteに掲載・公開する。
コンテンツのストック場としてnoteを活用するのだ。
その1「オトナの手品」
最初に掘り出したのは「オトナの手品」という書籍の素材だった。
これはよくあるマジックのタネ本ではなく、
「女の子と飲み屋に行ったときとか、スナックのカウンターで死ぬほどきれいなママさんがカウンターの向こうにいたときなんかに、ちょっとマジックなんか簡単に見せたりしたら、さぞかしモテるんではないか」
という、よこしまな考え方から企画した本だった。
実際にはマジック用品のメーカーまで取材に出かけて、世の中的にすでにネタがばれてしまっているようなものを許可を受けながらセレクトし、大人用にアレンジしてまとめたもの。
スナックなどでパンを空中に浮かせて見せる、なんてことをすると物凄くウケた。しかし、その結果としてさらに期待したモテるという現象はほとんど起きなかったことは、ここでタネあかしをしておこう。
どうやってパンを持ち上げるのか。その方法はこう。
ほらね、浮いたでしょ。
ほかにも数々の奇跡を起こす方法を惜しげもなく公開している。
「私はマジックなしでもモテるけど、マジックがあったらどれだけモテることか」
と思う人はぜひご覧いただきたい。
その2「ヤメル本」
「ヤメル本」は私のちょっとひねくれた思想から出てきた企画であった。
「さあ、はじめましょう!これで新しい可能性が広がります」
「こんなに便利、すぐにスタート!」
「早く始めれば、それだけお得!」
世の中、モノやサービスを売るための、こんな文句にあふれている。
でも「やめる」という選択だって私たちにはあるはず。
見渡せば何も考えずに続けているもの、何となくやめることができなかったものだらけ。
もう荷物を捨てるように「やめましょう!」という提案をする1冊だった。テレビ、保険、ギャンブル、自家用車、新聞(まだ元気があったころだったので)から入場料、結婚、お歳暮まで身の回りの「当たり前に」「つい」「なんとなく」続けているものの「やめる」方法を書きまくりました。
これは結構世の中に受けて、その後、項目を変えて2度書籍化されたりもしました。
断捨離が流行る前でしたので、こっちが元祖捨てる本(笑)。
例えば「保険をやめる」の項ではこんなこと書いている。
怖いもの知らずの若さ溢れる原稿だが、なんだか良いことも書いてある。
実際私も数年前、結構大きな検査(という名の手術)を経験した。
それには車を買えるくらいの費用が掛かった。
しかし、公共の高額医療支援制度というものがあって、結局20万円ほどの金額ですますことができた。
入っていた掛け捨て(月1万円程度)の保険も使用しなかったのだ。
ほかにもいろいろ「やめた」コラムは下記にあります。
その3「色彩の本」
「色彩」のことを書いた「なぜ未亡人は美しく見えるのか」「色彩の教科書」の2冊。
これは私が個人的にずっと勉強していた色彩マーケティングについて書いた本だ。
色彩マーケティングとは色彩と商品の売り上げや人間の心理や行動に与える影響の関係について着目したもの。
あるメーカーのサイトで連載していたコラムに、「なぜ未亡人は美しく見えるのか」という派手なタイトルをつけて出したところ、これが本の売り上げよりもタイトルのせいでマスコミに受けて、結構ラジオやテレビ(ちょっとだけ)などに出させていただいた。
ただ「先週のマンホールデザイン収集家の〇〇さんに続いて、今週は『なぜ未亡人は美しく見えるのか』という面白い本を書かれた夏井さんの登場です!」という形でのお呼びだった。
我ながら「ああ、世間ではこういう引き出しに分けられているのね」と思ったものだ。
「色彩の教科書」の方は結構売れた。
ちゃんと色彩マーケティングのことを一から解説した本で、手に取りやすい新書版だったこともあって、とても売れた。
だけど出版社の方はあえなく倒産したのだった(涙)。
ちなみに「なぜ未亡人は美しく見えるのか」はタイトルは不真面目だが、内容は結構ちゃんとしている。
本をいろんな人にプレゼントしたが、
「机の上のおけなくて困る」
「奥さんににらまれた」
といったクレームを多方面からいただいた。
結構真面目である。真面目にちゃんと書いているではないか。
ちゃんと書いているのに、この書名のおかげで、私はその後しばらく一部の人々から「未亡人評論家」と呼ばれることとなった。
団鬼六先生の弟子のような、ありがたい誤解であった。
以下、生活から商品まで多方面の色彩マーケティングについて公開している。ご興味のある方はこちらで。
(つづく)