大好きなペトロールズについて

 ペトロールズ。人生で初めてファンになった人たち。

 とにかく「推し」に縁遠い人生で、何かに、あるいは誰かに強烈にハマることがなく、何事も広く浅くで生きてきた。自分はオタク気質ではないのだと、これからも何かを深く好きになる事はないのだと、そう思っていた。

 かれこれ6年前。当時聴いていたバンドが『雨』をカバーしていた事がペトロールズとの出逢いだった。ストレートではない歌詞に、結局これは恋愛の歌?どういうストーリー?なんて思った記憶があるが、とにかくメロディとリズムが心地よく、YouTubeで何度も何度も『雨』を聴いた。

 当時、友人の紹介でよく遊んでいた人がいて、ふとした時にお互いペトロールズを聴いている事が分かり、弾丸でライブに参戦した事があった。多分2018年の秋のツアー。ペトロールズを聴いているといっても、当時の私は『雨』を聴きたいがためにタワレコで買ったアルバム『Renaissance』をさらっと聴いた事があるくらいで、ライブで演奏された曲のほとんどを知らなかった。彼らのファンというよりも『雨』のファンにすぎなかった。

 王道ではないコード進行、盛り上げに来ないサビ、少々回りくどい歌詞。『雨』以外は好きじゃないのかも、なんて思った初ライブの帰り道。そのよく遊んでいた人に「付き合ってほしい」と言われ、何となく決め手がなく保留をし、結局そのまま疎遠になってしまった事も含め、苦い記憶が蘇るものとなった。

 それから数年はペトロールズから離れ、ライブ参戦もしなければ、音源を聴く事もほとんどなかった。『Renaissance』の中で聴いていたのも『表現』『Fuel』『Profile』くらいで、それ以外の曲は流れてきてもスキップしていた。

 しかし再び彼らの音楽に触れる機会が来る。職場の異動先で、東京事変を好きな同僚と出会い、話題は浮雲からペトロールズに飛び、あれよあれよと再び彼らのライブに行く事になった。明日行こうと思い立ってもチケットが取れるところが何より最高で、この緩さのおかげでペトロールズとまた出逢うことができたように思う。

 久しぶりのライブ参戦。2022年秋のツアー。4年前とは明らかに何かが違った。違ったのは彼らではなく私の方。あの頃はよく分からなかった楽曲の素晴らしさ、演奏技術の高さ、トークの緩さ、柔らかい雰囲気、ファンの人たちが纏う優しい空気。そのすべてが心地よかった。また会いたい、ライブが終わらないでほしい、この空間ごと持って帰りたい。そんな気持ちだった。

 そこからは『Problems』『GGKKNRSSSTW』の購入を皮切りに、メルカリで過去のCDを買い漁り、とにかく楽曲を聴きまくった。何かの主題歌になるような、ドラマチックな盛り上がりやキャッチーさはないけれど、聴けば聴くほど好きになる、味が出る、全く飽きが来ない不思議な魅力に取り憑かれた。

 気付けばライブ参戦はほとんど皆勤賞で、半年に一度のライブが日々の糧になっていた。春と秋はペトロールズ。そのために頑張って働いていたように思う。

 音楽だけではなく、3人が醸し出す雰囲気と、それを暖かく見守るファン、これらが一体となった会場の空気そのものが大好きだった。こんなにも純粋に、心惹かれる存在に出逢った事はなかった。気付けばペトロールズは自分の人生の一部になっていた。大切すぎて、仕事で嫌な事があった時は絶対に聴かないと決めている。大好きなペトロールズを聴いた時に、嫌な気持ちなんて1ミリも思い出したくない。ペトロールズを聴く時は、心がフラットな時。もはや生活の一部みたいなもの。窓から入る光や風と同じくらい、日常に溶け込んだもの。

 当たり前すぎて、これからも変わらずに側にいてくれるものだと疑わなかった。先月、ライブに行ったばかりだった。また桜の咲く季節に会いに行こうと決めていた。次会う時はアルバム出してくれるかな、なんてワクワクしていた。それがもう叶わないなんて。永遠に叶わなくなるなんて。

 喪失感が大きくて、まだまだ受け入れられそうにない。穏やかに、ぼんやりと、力強くはないけれど、確かに私の足元を照らしてくれていた灯火が、今にも消えそうで、どこに歩いて行ったらいいか分からない。

 ペトロールズは今までもこれからもずっと3人。あの3人でなきゃダメなんだよ。それはファンも、遺された2人も、みんな分かっている。でも、もう会えない。あの3人をステージで見られる日は二度と訪れない。訃報を知った今日という1日が終わろうとしている今、どんどん現実が押し寄せてきて、涙が溢れてくる。

 迷子の気分だ。哀しい、辛い、切ない、苦しい、どの気持ちでもない、喪失感。昨日は暖かかったのに、今日は凍えそうな程寒くて、夕方からずっと雨が降っている。涙が止まらなくて、どうしたらいいか分からなくて、『雨』を何度も何度も聴いている。ペトロールズを聴く時は心がフラットな時って決めているのに。これじゃあ『雨』を聴くたびに、今日の事を思い出してしまう。

 早すぎるよ。おじいちゃんになるまで追いかけるつもりだったよ。ずっとずっと、隣にいてくれると思っていたよ。どうしたらいいか分からないから、今夜はずっとペトロールズの曲をかけて喪に服す事にする。しんどいけど、どういう結末になっても、2人が決めた事なら何でも受け入れる準備はしておくから。

 ボブさん、どうか安らかに。ペトロールズは今までもこれからも最高のバンドだよ。

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