2023.7|いちばん影響を受けた〈場〉
7月
一般社団法人NOOKの拠点 Studio04で行われた、アートプロジェクト〈とある窓〉の顔合わせに行ってみた。
12個の中で、今年の私がいちばん影響を受けた〈場〉だった。
NOOK(のおく)は、東日本大震災以降、仙台を拠点として災禍にまつわる記録を続けてきた団体である。
また、記録をもとに表現したり、ワークショップを開催したりしている。
そして2022年に東京の大島に拠点をうつし、新たなアートプロジェクト「カロクリサイクル」を始めた。
〈とある窓〉も「カロクリサイクル」の1つである。
〈とある窓〉はもともと、岩手・宮城・福島の人びとに窓についての話を聞き、聞き書きの冊子と写真を展示する展覧会だった。
今回私が参加したのは、東北でおこななわれた〈とある窓〉の江東区版。
Twitterで募集を見つけて連絡し、リサーチャーという立場で関わることになった。
東京都 江東区 大島
NOOKの新拠点Studio 04があるのは、東京都江東区の「大島四丁目団地」。
私はこの顔合わせで、おそらくはじめて団地に足を踏み入れた。
団地は、とにかくおっきい。
「家」「マンション」というより、ちょっとした町だ。
団地の敷地内に入るとまず、公園がある。
幼稚園もある。飲食店もあるらしい。
私が訪れたのは真夏の昼間だったから、さすがに人通りは少なかった。
でも、巨大な「団地」という空間が、せまってくるのを感じた。迫力。
Studio04の心地よさ
Studio04には大きな窓があって、外とつながっているようだ。
晴れていると、光がたくさん差し込んでいる。
室内が明るいのは電気があるからではなく、太陽のおかげ。
NOOKのみなさんからプロジェクトのお話を聞いていると、どこかから聞いたことがない音がしてきた。
上のほうかな?
パリ パリパリパリ の、もう少しくぐもった感じの音。
「上の階の人が水を使うと、水道管に水が流れてこういう音がするんですよ。あまり気にしないで」とのこと。
私は、たびたび聞こえてくるこの音が好きになった。
まわりには、展示や本たちがたくさん。
みんなゆったりと、静かにたたずんでいる。
Studio04には、団地の人や近くに住む人がふらっと遊びに来たりする。
団地にはどんな人が住んでいるのかしら?と思ったら、なかなか多様な人びとが暮らしているらしい。
昔から住んでいるおじいちゃんやおばあちゃん。子育て中の若い夫婦と子供たち。近くにはインターナショナルスクールもあって、外国籍の人も多い。
ふらっと入ってきて、昔の大島の風景や自分のことをおしゃべりしていくんだとか。
1時間以上話しこむこともあるそうな。
物理的な〈場〉があると、こういう良いことがあるんだなと思った。
「今日はあいてるかな?」とのぞいて、ふらっと立ち寄れる。顔見知りがいれば、おしゃべりする。
目的なんてなく、話題は逸れてしまってもよく、時間が許すかぎりゆらゆらと。
自己紹介のことばを選ぶ
最後に、この顔合わせで感じたことを書いておきたい。
そもそも私は、戦争の記憶を継承する方法に関心があった。
でも大学では教育学を専攻していたので、まわりに近い関心の人はいなかった。
それでも本を読んだり、ミュージアムに足を運んだりして、戦争や記憶のことに少しずつ詳しくなっていった。
そして戦争や記憶のことを知れば知るほど、自分が実践から遠く離れた〈場〉にいることを感じていた。
語り合いが起こる〈場〉に、私はいない。
私も語り合いの〈場〉に参加したい。
でも、なにから始めたらいいんだろう。
そんなとき、アーティスト 瀬尾夏美さんのTwitterで〈とある窓〉の募集を見つけた。
個人的な語りを表現する「聞き書き」に挑戦できること
それが記憶継承の実践にもつながるかもしれないこと
自分の関心と近い気がして追いかけいた瀬尾さんやNOOKのみなさんと活動できること
あこがれがぎゅっとつまった福袋みたいなプロジェクトで、わくわくした。
そんなわくわくどきどきを胸に、顔合わせに参加した。
当然、自己紹介が求められる。
私は少し、こまってしまった。
〈とある窓〉は私にとって、「もっとこういうことをしてみたい!」の第一歩だった。
自分が1番大切にしている「戦争の記憶継承」というテーマに、体を使って関わる最初の機会だったと思う。
だから、私が大切にしている関心を表してくれるような属性や肩書は、まだなにもなかった。
でも「教職大学の学生」「教育に関心がある人」というアイデンティティはここに持ち込みたくなくて、困ってしまった。
私は何者なんだろう。
ここで、どんな人として見られたいんだろう。
そういえば5月の丸木美術館で、出会った人に自己紹介するときにも似たようなことを思ったな。
いつでも自己紹介がまわってくるまでの時間はとても短いし、自己紹介で発言する時間はもっと短い。
属性や肩書がなくても、人は自分を語れるはず。
そのためのことばを探さなきゃ、と思った。
私が強くあこがれてきた、入りこんでみたいと思っていた、大切に育てていきたい世界。
私は、どのようにその世界と関わるのか。
世界の住人に、何者として認識されたいか。
何者として生きていきたいのか。