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ドロップキックで客を倒した富永くん2
『ドロップキックで客を倒した富永くん1』の続きです
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「君も僕のこと見に来た?」
富永くんは眉をㇵの字にして、悲しそうな顔をして言った。「え、あ、いや……」と、言葉にならない声を出しながら、返答に困っていると、富永くんは顔を伏せてパックジュースをレジに通した。
外は既に暗くなっていた。車のヘッドライトが時折、直接光って顔をしかめる。スマートフォンを買った時に付属していたイヤフォンのねじれを取って耳に入れた。どの曲を聞いても、富永くんの言葉と顔が鮮明にフラッシュバックした。
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昨日と同じ時間に、僕は富永くんがいるコンビニへ行った。意外と良い奴かもしれないとか、友達になろうなどと思ったわけではない。ただ、どうしてもあのときのあの顔と言葉の意味が知りたかったからだ。昨日と同じガードレールに腰掛けて富永くんを待つ。
富永くんは片手にひとつだけゴミ袋を持って、店から出てきた。すぐに僕に気がつき顔を強張らせると早足で店の裏へ行こうとする。
「ちょっと待って!」
富永くんは立ち止まった。去ってしまう前に正面に回り込む。
「今日、時間あるかな?」
頷く富永くん。悲しそうな顔はしていないが、見たことのない表情をしている。ただ、嬉しくないのは確かだと感じた。
「じゅ、十時にバイト終わるんで……」
そういうと、ゴミをさっさと出して富永くんは店内に入ってしまった。
***
十時十分頃、富永くんは出てきた。僕を見つけて顔を強張らせていたけれど、「公園に行こうよ」と言ったらついてきてくれた。二人分の缶コーヒーを持って、富永くんが座っている隣に腰掛ける。
「はい」
富永くんはおどおどした風に缶コーヒーを受け取る。
「昨日さ。言ってたじゃん。君も見に来たの?ってあれって……。結構、興味本位でコンビニ来る人いるんだね」
黙ってうなずく富永くん。
「僕も友達から話聞いて興味本位で行ったんだ。昨日。でも、全然、奇声あげたり、突然走っていなくなったりするような人には見えなかったよ」
富永くんは缶コーヒーを開けずにうつむく。じっと返事を待っていると、ポツリポツリと話し始めた。
「先月からコンビニのバイト始めたんだぼく。それで、この間、万引きがあって……。どうしたら良いかわからなかったから、とりあえず追いかけて、捕まえて……そしたら、追いかけるところ同じクラスの人たちに見られてて……変な噂流されて……」
富永くんは「友達もいなくなっちゃった……」と小さく呟くとさらにうつむいた。
「じゃあさ、富永くん……」
この時の僕は、完全に同情していた。そして、この同情という偽善的行為が僕の一生を変えた。
<おわり>