ショーロホフ「静かなドン」(新潮社 世界文学全集 所収 原卓也訳 4巻)
数年前に、トルストイを除く代表的ロシア文学者の全集を読み終えた時に、人生最後のロシア文学として本書を読もうと考え大事に取っておいた本である。予想以上に早く読むことになったのは、最近感じる何となく空しい感じを克服するためかもしれない。50年以上も前に購入した本。原卓也の訳は極めて平易で読みやすい。
ドン河中流域にすむコサックたちの日常生活。麦や牧草の刈取り。チョウザメなどの漁。嫁取りや兵隊後家。コサックに課せられた兵役と、高いプライド。百姓への蔑視等がその日常生活の流れの中で巧みに描かれていく。
トルコの血も流れるグリーゴリイとその隣人の妻アクシーニャが1部の主人公。彼ら二人の駆け落ちが契機となって物語は一気に動き出す。コサック部落にも党のオルグが浸透する。やがて第一次大戦がはじまり、ドン河沿いの部落からコサックが続々と応召して戦線に。初めて敵を殺し夜も眠れないほどの衝撃を受けたグリーゴリイもやがて古参兵士となり何回も勲章を受ける。眼の負傷でモスクワの病院に入院した時に、同室の兵士から、戦争の原因や革命の必要性などの話を聞かされ次第にその理解を深めてゆく。
ロシア皇室関係者の病院内巡回の時に、帝室への不満を行為に現して退院させられ、アクシーニャの待つ領主の館に戻る。そこで見たものは、領主の息子のリストニツキー中尉によりその囲われ者になっている彼女であった。中尉を鞭で何度も殴りつけ、哀願する彼女を一顧だにせず両親の元に戻った彼は、彼に捨てられた妻が実家からまた戻っている姿を見出す。平穏な、満足しきった休暇であった。1巻は1916年末ごろで終わっている。