五味川純平 人間の条件(2)
作品の意図について著者は次のように話す(“まえがき”(現代の文学「五味川純平全集」河出書房新社)・
・ ある局面での人間の条件を見極めたい。
・ 我々が前の世代の遺産としてあの戦争を苦痛と絶望の中で背負った事実があるにもかかわらず、今また恐ろしい遺産相続の遺言がなされようとしているからである。
・ 何を書くにしてもそれが物語であるならば、面白くなければならない。練達の文学者たちからは『通俗』と誹謗されそうな面白さである。
それ以上に雄弁に語る筆者自身の言葉が、五味川の写真の次のページに自身の署名と共に記されている。 “戦争の消耗品でしかなかった男たちの物語”
“生きようとして死んでいった人々の物語”
第1部のあらすじ
・ 二人の男女が肝心なことを話さずにとりとめもなく歩き続ける場面から始まる。男は梶。女は美千子。二人は大連にある巨大な軍需会社の社員である。梶の労務管理の報告が部長の目に留まり、現場で彼の方法を試そうとする。現地赴任と引き換えの条件は召集免除の特典。
・ 結婚した二人は、石炭採掘場の老虎嶺に赴任。中国人工人の労務管理の責任者として、同僚の気骨ある沖島の協力のもとに、工人でも”人間らしく”扱い、生産効率を高めようとする管理方法を進める。当然ながら、旧来のやり方で甘い汁を吸ってきた現場監督やその手下と衝突する。苦しむ美千子。
・ 軍から、突然捕虜(特殊工人)の払い下げが提案される。至上命令の増産のために軍の要請を受け入れる現地所長。管理方法の非人間性に反発する梶ではあったが、召集免除特権の取り消しを恐れて受け入れざるを得ない。渡辺軍曹の恐ろしいほどの肉体的、暴力的圧力。
・ 貨車からやっとのことで這い出してくる特殊工人の無残な姿。梶は、即日の就役を拒否、給食と休息を与える。反発する旧勢力。
・ 就労日における特殊工人リーダーの王享立との初めての会話。一般農民だとして釈放を求める捕虜たちの声。自分には拘束する権利しかない、“お前らに接することが出来るのは、最低限度の人間の条件の範囲内でだ”と王に語る梶。
・ 鉄條網と娼婦の出入り。増産のための飴。娼婦と工人との恋。密かに進行する脱走計画(一般工人労務管理側の引き抜きと捕虜の脱走希望)
第2部のあらすじ
・ 11人の特殊工人の逃亡。裏切られ怒る梶。
・ 王享立の手記には、王の妻への日本兵士の凌辱、中国人の取り押さえ、襲いかかる日本軍…などの事実が書かれていた。
・ 梶の王への過剰とも思える意識。“あんたは、ヒューマニズムの偽善者になってしまう”と言う王の発言を美千子に語る梶。
・ 18人の再度の逃亡。一人で責任をとる覚悟をする梶。現場監督と所長の陰謀(逃亡を唆し感電死させる)。みせしめのためだけに。
・ 選鉱場からの自然発生的な逃亡が脱走とされ憲兵隊による処刑に。救済に苦闘する梶と周囲の無関心・冷笑。
・ 渡辺軍曹による斬首の開始。止めなければと・・・と苦悩するも体が動かぬ梶。
「人間を恢復する最後のチャンス」。美千子の声と沖島のニヤリとする顔を想起する・・・。
・ 4人目の時に遂に梶は「待て」と飛び出す。渡辺軍曹に切られようとするとき、王享立に扇動された捕虜たちの騒動が発生して、梶は切られずに憲兵隊に連行される。待っていた激しい連日の拷問・・・。
・ 3週間後に釈放された梶を待っていたものは召集令状。