「日本の追慕」
筆者エラスムス(1854-1923)はポルトガル人。海軍軍人として所用で来日。日本の強い印象を受けて帰国後又来日し、領事などをしながら日本人妻を得て徳島で死去。日本人が恥ずかしくなるくらい、西欧文明到来以前の古き日本を賛美。
・ 中國との対比で日本の風景、自然、乙女、清潔さなどを賞賛。特に昔ながらの風景。日本の女、特に乙女のへの「和服を着たしなやかな肢体、優美な顔、物腰の優美さ、丁重な挙措、異国情緒」にほれ込む。
・ 日本人の清潔好きを強調する箇所が相当数見られる。
・ 日光を訪れた時、目にした欧風化の弊害。その腹立ちを「日光を見なかった」と表現。
・ 欧風化を進める日本人への警告。失われてゆくものへの哀惜などが語られている。
・ 輸出品生産のために、工芸品などの古来の優秀な品質がどんどん失われてゆくことへの非難と哀惜。
「日本精神」の由来と特色について;
・ 美しい天然の自然と、度重なる大きな災害。これらが日本人の性格形成に大きな影響を与えた。優しさ、微笑み、自然への深い崇拝。怒りっぽい性格。
・ 神道と仏教との深い融合。これが国民に祖先(蒙古)以来伝わる粗暴さを取り除いた。
・ きわめて昔からの祖先祀り、家族祀りの信仰の伝統。これが日本人精神の根本。これに神道や仏教が絡みつき、養分を吸っていったのだ。
・ 日本の家族生活、家の構造、戸主と家族の関係。
・ 氏神神社の日本社会における存在の重要性。
・ 多くの集団。個人はその中に完全に埋没し、その一員としての活動。
・ 結婚は後継者を得るため。
・ 日本の女は家族内の地位は二次的。しかし、確かに幸福を感じている。
・ 民族的な没個人性という表現が各所に登場する。エラスムスのみた日本人の性格の一つ。
・ フランス水兵との争い・堺事件への記述。勇子の自決(大津事件)。
佃実夫「日本に難破したポルトガルの友人モラエス」という書物は彼の生涯を描いた小説として知られている。佃はそのなかで、「彼の大きな齟齬(徳島生活での)は、『日本に惚れ過ぎていたため、アバタもエクボに見えていた事実に、一つ一つ突き当たったせいであろう』と記している。