小泉八雲「小泉八雲「明治日本の面影」(講談社学術文庫)
小泉八雲「小泉八雲「明治日本の面影」(講談社学術文庫)読み終える。大変興味深い。明治期に日本を訪れた西洋人の中では全く異色。もし妻子がいなければ、本来の紀行記作家として日本を去っていったことであろう。日本の江戸期までの文化的・道徳的遺産にほれ込み、この本を書き世界に紹介したが、その後文明を進める日本に嫌気を感じたことが随所に率直に書かれている。
本書は、以下の内容から構成されている。
1. 英語教師の日記から
松江の中学に赴任した明治23年の記録。田舎の風俗に対して違和感を受けることなく、多大の関心をもって生徒や同僚、或いは、葬儀の様子を子細に観察している。生徒の葬儀の個所は秀逸。日本人として恥ずかしくなるくらい、古代から連綿と続く日本精神(神道に仏教が吸収されるような形でハーンは理解)への賛美が記述される。
2. 日本海の浜辺で
漁師たちの精霊送りの風習と日常生活。挿話としての民話が採集されている。
3. 伯耆から隠岐へ
隠岐の素朴な生活と穏やかな景色に魅了されて一月ほど滞在する。肥料にする魚の匂い以外、ハーンは何も否定的な言辞をはかずに宿の待遇、人々との交流を楽しんでいる。民話や伝承が採集されている。日本人を、漁師であっても自分と同等のものとして交流する姿には彼の人間性を感じる。
4. 化け物から幽霊へ
5. 日本人の微笑
外国人に叱責された時に見せる日本人の微笑。外国人には不可思議に映るその微笑を、ハーンは、「日本人の礼儀正しさ」をもって解釈する。その微笑は、𠮟責への悪感情を本人が抱いていないことを示すものであると。叱責への許しを請う言葉とともに相手への思いやりもその微笑は含むものであると・・・。
日本人が自覚しているとは思えない日常の所作を日本への愛情から好意的に解釈しているといえようか。
6. 横浜にて
7. 勇子
明治24年の大津事件。天皇がロシア皇太子の容態を心配していると報じられると、日本は天皇が死去したかのようにひっそりとする。その中で、東京の孤児である若い娘勇子が、天皇のために役立ちたいとして、京都で武士の娘らしく見事な自殺をする。しかし、事件は報じられず、彼女はひっそりと寺に葬られる。ハーンはその寺を訪れる。
私にとっての驚きは、天皇制や天皇崇拝が、こんな早い時点で庶民のレベル、それも年若い娘に自殺という形で天皇の気持ちを慰める動機となったという、その全国への広がりの速さである。明治前半の社会への理解を少し改める必要を感じた。
8. 京都旅行記
9. 出雲再訪
赴任から7年後に訪れた出雲。多くのものは、以前と変わらぬ姿を示しているが、ハーンの心には何かが変わった、何かが失われたしかしそれが何であるか見いだせないまま旅を終える・・・・。
10. 富士の山
2人の強力に支えられて富士を登った時の紀行である。詳細な記述は確かな彼の観察眼を示している。残念ながらご来光は見られなかった。
以下、省略
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