裏長屋物語 3

雪の降る師走だった。長屋の入り口をふらつきながらなだれ込んだ男に、長屋の主人さぶは温かい芋煮汁を食べさせた。伊藤蔵之介はその芋煮汁を少しずつ、体に染み込ませるように食べ、箸を置いた。何も語らない蔵之介に、さぶは寝床を提供した。

「この長屋には、氏素性の分からない奴らが暮らしてる。流れながれてここに行きついた。みな、それぞれに事情がある。宿賃はいつでもいい。ちょうど一つ空いてたところだ。好きなだけいなさい。」さぶはそれだけ言って、汁椀を下げた。

「伊藤蔵之介と申します。浪人者です。ご好意感謝します。」さぶは、自分の名前と何かあればいつでも頼るようにと伝えて、蔵之介に寝床を案内した。

蔵之介はそれから、この長屋で暮らしてくことになった。

さて、長屋の主人、さぶである。普段は寡黙なこの男、本名は石川七衛門。かの有名な天下の大泥棒石川五右衛門の孫にあたる。齢は58。もう現役はとうに引退した。盗んだ金で今は、長屋の主人として、細々と老後を過ごしている。江戸時代も100年が経ち、戦国時代から天下泰平の時代に、仏教や儒教が教育として広く行き渡り、高いモラルも浸透した。七衛門は今更ながら泥棒稼業に疑問を感じ、自分の代で終わりにしようと腹に決めていた。

そんな、七衛門が1年後に、最後の大泥棒を働くことになるとは、この時思いもしなかった。それは、伊藤蔵之介のため、そして武士の忠義を全うするため、祖父の無念を晴らすため、さまざまな思いを抱いた結果だった。


歴史を学ぶ意義を考えると、未来への道しるべになるからだと言えると思います。日本人は豊かな自然と厳しい自然の狭間で日本人の日本人らしさたる心情を獲得してきました。その日本人がどのような歴史を歩んで今があるのかを知ることは、自分たちが何者なのかを知ることにも繋がると思います。