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ローズは魔女だったかもしれない

私の師匠は超ヒッピー系オランダ人のローズ。
60歳を超えていたのにドレッドヘアの女版ボブマーリーのような女性でした。

出会いは、これも不思議な運命の出会いでした。

当時の私は、何不自由のないむしろ贅沢な環境にいました。好きなものは手に入る、行きたいところにはどこへでも行ける。
お金に縛られることもなく、自由になんでもできたそんな時代を過ごしていました。それでもいつも満足感を得られず、宙ぶらりんの心。
このままでは、ダメと思っていたところで、私の全てが詰まったバッグを盗まれてしまったのです。
パスポート、IDカード、とにかく身分を証明するものを無くした私。
当時外国人だった私にとっては大変なことでした。

神隠しのように消えてしまったバッグが出てきたのは、そのローズの車の下。
その車は私が夢の中で何度も見ていたシトロエン。
呼ばれたとしか思えなかったその状況は、とてつもなく悲惨な状況でした。

パートナーと別れたローズは、支払いに追われ、息子も部屋も店も荒れ放題でした。
でも作品を作る姿に惹かれた私は、彼女の生き様を知り、人生の楽しみ方を学びました。
私が見えていたものは単なる外側の世界で、悲惨に見えていた姿の内に隠されていた彼女の人生は素晴らしくワクワクするものばかりでした。
私は仕事を辞め、ローズのもとで1年あまり無償で働きました。無償と言うと怒られそうなので、経験というものとの引き換えです。

そんな彼女がいつも言っていた言葉。
There is nothing you have to do.
しなければならないことなんてない。

いつでもやめていいよ。いつでもやめられる。やりたいと思ったらやればいい。

そして私はアーティストになりたいという理由で離婚したのです。
安定を捨てて、心の旅を続けることになりました。

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ローズと私は似ていました。お互いが認めるくらいに似ていました。
同じ香水、同じタバコ、同じ曲に惹かれ、いつも横でコーヒーを飲むだけで関係が成り立っていました。
そしていつからか、ローズの影と呼ばれていました。

ローズの店はアトリエと兼用になっていたので、お客が来ると作れないのです。
そして私たちはいつも、入って来たお客をじっと観察、そして接客するかを決めていました。
毎日そんな感じで、毎日いわゆるサービスは提供しませんでしたが、「その人」を見つけたら、永遠に話したものです。
買う?買わない?は大体の確率で当たっていました。

ルイヴィトンは、お客を選ぶと聞きました。ローズは、お客を追い帰します。
私は、何度もその光景を見ました。お金が無いのに、お金の為に働かないんです。
ご丁寧に「あなたに似合うものはございません。」です。
サービス業を追求して、一生懸命にあらゆる組織に揉まれた私にとっては、
ローズという女性が、あまりにも斬新で、エネルギッシュで、とてつもなく広い世界に生きていると感じました。

思い立ったらなんでもやっちゃうローズ、彼女が辿り着いたのはジュエリーデザイナー。
彼女は、この仕事は華奢な仕事ではない、私は自分をエンジニアだと思ってると言いました。
その意味を今はとても重く感じています。

綺麗な石を扱えば綺麗なものはできます。
綺麗なものを仕入れて繋げるだけで売れます。誰でもできます。
私はこれまで誰でもできることをしてきました。それで少なくともパートで稼ぐ位のお金になりますからありがたいものです。
みんなが欲しそうなものを、誰よりも安く売る。

でも、またあの時と同じ気分が蘇りました。
心の動きが鈍くなる気持ち。心のエンジンがさび始めていると。

さびかけたエンジンにオイルをさしてくれたのが、またあなたですね。
Are you still alive?

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パバロッティのホーリーマザーを二人で聞いたクリスマス。
あの日は、親子とは何かを考えさせられた貴重な日となりました。

クリスマスはいつも浮かれた気分で過ごしていた日本に居た頃の私。
オランダで過ごした何度のクリスマスは、家族をより一層感じるクリスマスでした。

いつものように私は店番をしながら、窓越しにお金を恵む親子を眺めていました。

すると、突然コインを持って店を飛び出したローズは、アツアツのピザを手に、
彼らに「メリークリスマス。God bless you. 」と額にキス。

私はローズは、貧乏でケチで、他人の事なんて気にしない人なんだと思っていました。
でも、その行動とやけに一体化したその映像に光を感じました。

「お金はあげないよ。」

お金より、愛を与えたローズ。元気を笑顔を与えたローズ。

お金が一番ありがたいと思う人もいます。
でもお金を手にした時に、どうそのお金を使うのか。

ローズが使った3ユーロのコインは、3ユーロの価値以上のものを作り出しました。
その笑顔と、一日の元気と、心の癒しと、ぬくもりと。

そして私が学んだ、お金の廻し方。

ローズのお財布にはいつもお金がありませんでした。
でも、ココシャネルのマニキュアとダヴィドフのタバコは欠かせませんでした。
歯には金を詰め、ジャラジャラと宝石をまとう。

自分では貧乏なんて思っていないんです。
だから恥じることも、惨めになることもない。
むしろ堂々としている。かっこいいのです。

そう、どんな姿もかっこいい。
誰もが出くわすどんな悲惨な、どんな試練でも、どんな間違えでも、
すべてに堂々と向き合えばカッコよく、それが人生のドラマになるんです。

私とローズは、鼻水が出るほど、二人で泣いたり、
1日中無言で、コーヒーを飲んだり、
恥ずかしいなんて思ったことがありません。

人がどう思うのか、それはその人の問題で、私には関係ありません。

今起こっている現実に、どう真剣に向き合っているのかが、それが私のお題。
どの瞬間も、恥じない自分でいる心を持つこと。

そして自分を受け入れる。


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「ローズが、癌になった」と聞かされたあの日、私は全てを許そうと思いました。

そう、私達は仲違いをし別れてしまっていたので、唯一のもう一人の弟子マルゴーに私達の経緯を話すしかありませんでした。
お金に欲が出たローズ、自分の夢を私に賭けたローズ、そこに生まれてしまった「依存」がローズを苦しめていた事など。

当時の私は、貯蓄を全て使い果たし、帰国分の航空券用のお金しかありませんでした。
もう、ローズの借金はほとんど片付いた。次は自分の足元を見ないといけない、そんな時でした。
「帰るしかない。」
一度手放したホテルの仕事、外国人の私には次の就職先を見つけることはできませんでした。
「やるだけやったから、もういい。」

でもローズは、私に仕事を与え続けました。
家賃が払えなくなる、帰れなくなる、と思いながらも、ギリギリまでローズの借金返済完了の瞬間を夢見て過ぎていく毎日。
でも、不思議と不安より楽しみの方が強かったので、私もそれを止めることができませんでした。
「なんとかなる。」

そうなんです。予期せぬことが起こったのです。
想定外の話。

当時配達員だった今の主人と、その時そこで出会ったのです。

正確に言うと、実はその数年前にも出会っていました。
でもお互いに既婚者。
数年後、お互いが離婚を経験し新しい生活を始めたところでの再会だったのです。

あっという間に、意気投合し、家の心配がなくなりました。
そして、一時帰国という出稼ぎに私は日本に戻ることになったのです。

ローズが受けたショックが大きかったのでしょう。
そのショックが怒りとなりました。
そして距離をおいて、もう10年になります。

私が作り続けるのは、ローズを忘れたくないからだけではないと思うのです。
また再会できる理由を持ち続けていたいから。
なぜ続けていけるのか、それは私は奇跡を信じているし、神様が見ていてくれていると思えるからです。

ある時、信じることを止めたくなる。
止めるか、続けるかは自分次第。


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価値観、先入観、そんなモノがとりまくマーケット。
そこは人間観察には持ってこいの場所でした。

アトリエにある高級なネックレスがここにもあるのに、気がつかないで過ぎ去る人達。

私とローズは、毎週教会の広場で開催されるマーケットに出店していました。

その姿はまるで男並み。皮のパンツにアーミーブーツ。
いいえ、ローズは男並みではなく男を従えるスーパーウーマン、「鉄の女」でした。

陣取りに男たちと朝から喧嘩。大量に詰め込んだガラクタを車から出し、屋台を組み立てる。
鉄パイプを手際よく組み立て、木の板を勢いよく乗せ完成。

華奢なジュエリーを取り扱うに相応しくない容姿なので、あのお店のオーナーだとは誰にもわからないのです。

私ならここで一服したい所なのに、鉄の女はまだまだ止めません。ストイックなのです。

完成した「店」を私に託し、消えていく彼女。よく見ると、マーケット中を探索していました。

早く行かないと良いものが無くなっちゃうからと掘り出し物を探しに出かけていたのですが、実はみんなに挨拶をしていたのです。

どこからでも、「ローズ、元気かい?」と声が聞こえ、大声で「まだ生きてるよ!」と応える彼女。

おこがましくこうしなさい、ああしなさいと言われることはなかったけれど、マーケット中はお酒は飲んではダメ。と厳しく言われました。

実は私、軽いアルコール依存症でした。
あんたには言われたくないよ、と思いながらもこの人を信じていた私はメリハリのあるお酒の飲み方をするようになっていきました。

マーケットは人が入り乱れる場所。誰でも気軽に立ち寄れる場所。

何が起こるか、どんな出会いがあるのか。足を止める人を干渉せず、ご縁のあった人だけが話しかけてくる。
サービスなんていらないし、堂々としていればいいだけ。

でも、怠慢な態度でいるわけではなく、形式ばった心のない会話をしないだけ。至ってシンプルです。

私はそれまで、サービス業を極めたくて様々なサービス業を経験しました。
高級ホテル、高級料理店、居酒屋、カラオケスナックなどなど。
でも私らしくいられたのは、このマーケットでした。

騒々しすぎて、無になれる場所。最高でした。

私が20代の頃インドを訪れた際に、価値は自分で決めるという事を知りました。
ただの嘘つきばっかりのインド人、ではありませんでした。

自分がそのモノに価値を付ける。

沈んでゆく太陽と、一緒に棒倒しゲームをしたアンジュナビーチ。
ジプシーの子供に囲まれて遊んだ思い出。
「今日はビジネスはお休みだよ。」と笑顔を取り戻した子どもたち。

私とローズはすでに似ていたのです。お金の代わりにできることをする。

Love is unlimited.
私にもあげられるものがある。


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ローズはその昔、毎週アムステルダムとパリを飛行機で移動するという生活をしていました。

それだけジュエリー作家としてバリバリ働いていた時代があったのです。家政婦を雇い、鉄の女と呼ばれた時代。

ローズは、一生懸命に努力を重ね、自立したアーティストとなり、お金に苦労することは無くなりました。シャネルを纏い、幸せな生活だったはずでしたが、突然全てが嫌になり、全てを売りさばき、アフリカへと飛んだのです。旅行じゃありません。生活をしに。

子どもたちがぎゅうぎゅう詰めのバスに乗り、不自由な生活をしているのを知り、自分の車を何度も何度も子供たちの為に走らせたようです。

幸せはお金では買えなかった。とパリに行き来していた毎日を振り返るローズ。だから全てを変えたそうです。そしてまた最初から作り上げる毎日を送っていたのです。

私も何度となく、リセットを繰り返しています。だからこそ、ローズに会えた。壊す力に強いエネルギーが働いて、引き寄せる力も働いて。

作り上げてきたものはもちろん大切。でも積み重ねた日々と共に、私たちは動かなくなる自分の一部に光を当てる必要があるのです。

アフリカはローズの心をさらに磨きました。ピカピカのジュエリーで輝けるローズではありませんでしたが、ローズはアフリカの砂埃にまみれて、本当の輝きを見つけたのでしょう。

本当の輝きは何だったのでしょう?

見えなかったものが見える目が開き、ローズは魔女になったのかもしれません。

大切なものは目にみえない。心の目でみなければ。


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ローズは魔女だった。という事を知りました。

そしてローズは過去世での私の母親だったということも。

あの不思議と安心する感覚と、惜しみなく湧いてきた助けたい気持ち。二人並んで座っていたその間には、間違いなく不思議なパワーがみなぎっていたのです。それは特別な神聖な空間でした。

家族でもない、日本人の年の離れた友達。

埃っぽいアトリエで、長い時間無言で会話する。きっとそうだったと思います。言葉の壁なんてなかったし、言葉なんていらなかった。

あなたは特別だよ。といつも言ってくれたローズ。だから特別だったの?

だから前に進めず、立ち止まっていた私を見つけてくれた。

あの日私は、ホテルのバーで友人と向き合って座っていました。バッグは背もたれと背中の間に挟んで。友人は後ろを歩いた人を見ていないし、私も背中に違和感を感じていないのに消えたバッグ。

「私」を証明するものがひとつもなくなってしまったあの夜から、私のリセットは始まったのです。

ローズと出会い自分を取り戻した私。調和できなかった社会と繕って無理をしていた自分との決別。

あなたのように生きたい。そう思えたから今の私がいます。

ローズ、あなたは今幸せですか? 少しはましな生活を送ってますか? 下品な言葉はやめましたか? 敵は減りましたか?

私があなたと親子だったのを知ってましたか? 

私があなたの話を本にすると言ったこと覚えてますよね、ほら、

あなたは私のレジェンド。

ローズ、あなたに会いたい。

It's time to meet each other again, isn't it? Let's continue to make our dream come true!

おわり

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