旅行先の一杯【短編小説】
天井近くまで張られた巨大なガラスの窓辺には、二人がけのソファーとテーブルが均等に並んでいた。昼間は賑わっている場所も、早朝の五時五十分という時間に、人の気配は一切感じられない。
有名な老舗旅館のロビーは、華美すぎない調度品が設置されていて、穏やかに過ごせる空間が演出されている。知る人が見ればわかるであろう豪華な品も、深みを増した木造の旅館にとてもよく馴染んでいる。
歴史の重厚感を肌で浴びながら、私は座る面が冷えたソファーに腰を下ろした。手には携帯電話と小銭入れ、それに温