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星の逢瀬

宵の空に、木星と金星が輝いている。

射ぬくような眩しさを放つ金星、
芯のある堂々とした輝きの木星。

ともにマイナス等級の明るさなので、
暗くなり始めた空で間違いなく目を引く天体だ。

3月2日に最も距離を縮めたふたつの星は、
多くの人の目を楽しませたあと、
今度は徐々にお互いの距離が離れていく。

目映いふたつの星が寄り添う姿は、
まるで恋人同士のようで、
離れてゆくことに勝手に切なさを感じている。

逢瀬、そして別れ。
星と星の恋物語で有名なのは「七夕」の織姫星おりひめぼしと彦星。
実際は、ふたつの星は恒星こうせいのため、お互いの距離が近づくことはない。
それに比べ、月や惑星は日によって位置を変化させるため、本当に逢瀬も別れも経験している。


近づき合う天体の姿は美しく、つい特別な感情をのせて眺めたくなってしまう。

昔から人は星空を眺め、星座や神話を生み出し、星の動きに世の行く末を占ったりもした。
見上げる星に何かを見出してしまうのは、
先人から永遠と受け継がれている血がそうさせているのかもしれない。


冬の星座が見える時期は、月の女神アルテミスと狩人オリオンの悲恋を想いながら。
オリオン座に女神がそっと歩み寄る様を、カーテンの隙間から見守った。


月がプレアデス星団に近付く時には、お互いを女性に見立てて想像を膨らませた。
プレアデスの七人姉妹は、きっと月の女神を歓迎してあでやかな踊りを披露したことだろう。
月の女神も日頃の疲れを癒やし、楽しい夜を過ごせたはずだ。


木星と土星が寄り添う時は、お互いに長い周期で太陽のまわりを回る者同士、仲間をたたえエールを送り合ったのではないだろうか。
木星の目を見張るような輝きに、負けじと土星も輝いて、ふたつの惑星は夏の夜空を賑わせてくれる。


恒星同士は、位置を変える月や惑星と違って、お互いの距離を詰めることはできない。
だが、七夕のふたつの星のように、恒星同士にも人々は美しさを見出して呼び名を付けた。

これからの季節は、春の星座が見やすくなる。
春にも、「夫婦星めおとぼし」と呼ばれるふたつの一等星がある。

うしかい座の「アークトゥールス」(呼び名に諸説あり)と、おとめ座の「スピカ」。

北斗七星から、このふたつの星をたどった曲線は「春の大曲線だいきょくせん」と呼ばれる目印になる。

アークトゥールスはオレンジ色、スピカは真っ白な色で輝く星。
片方を見つければ、近くで光るもう片方の星もすぐに見つけることができる。

ふたつの星が近くで光り合う姿は、まさしく仲睦まじい夫婦のようで、春の夜空をやさしく照らしてくれる。

春の星座が見やすい位置にのぼってくるまでを心待ちにしながら、
日の入り後の空に輝く惑星の接近を、もう少し楽しんでいようと思う。


2023.03.05 朝


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