冬を渡る
3日前の朝、近所で小鳥を見かけた。
初めて見た鳥だったので、嬉しくなって立ち止まりじっと観察した。
大きさは雀くらい。
お腹が鮮やかなオレンジ色で、頭の色はグレー。
家の柵に止まっていたその子は、つっ、と地面に飛び下りると、何かを啄むようにぴょこぴょこ頭を動かした。
こちらに背中側を向けたとき、ぴたりと閉じた黒っぽい両羽に白いもようが入っているのが見えた。
尾にかけてすぼまった羽もようが、まるで着物の裾のように見えて、雅やかな雰囲気を感じさせた。
オレンジ、グレー、黒と白。
すぐに名前を調べたかったけれど、出勤前だったのであとで調べようと特徴を頭に刻みこむ。
そういえば、“ジョウビタキ”ってどんな鳥だったっけ?
ふとそんな名前が思い浮かんだが、考えているうちに、それが鳥のものだったか植物のものだったかあやふやになってしまった。
職場で使用している部屋の南側には、大きなガラス窓があって、桜の木がよく見える。
正確には南西なのかもしれない。
夕方になると冬の西日が差しこんで、ブラインドを下げなければまぶしくて仕事に集中できない。
この部屋は建物の1階にあって、窓からは社員用の駐車場と、駐車場に沿って植えられた樹木、そして遠くに山の景色が見える。
(この部屋に今月移動してきて一番に嬉しかったことは、山並みに沈む美しい夕陽を毎日見られることだった。)
窓の中央には、大きな桜の木が立っている。
鳥たちがよく遊びに来ていて、仕事中、何度も楽しそうなさえずりが聞こえてくる。
晴れの日はとくに数が多く、ご機嫌だ。
今使っているこの部屋は、以前のような自分専用のデスクが無い。
作業用に長机と椅子が置かれていて、日ごとに組み合わせが異なる出勤メンバーが、来た順に適当に席を決めていく。
この日は、窓に顔を向ける位置に座った。
パソコンから顔を上げるたびに桜の木が視界に入り、時折、鳴き声とともに枝の間で影が動くのが見えた。
少し距離があるのと、鳴き声だけで判別できるほど鳥に詳しくないため、さすがに何の鳥かまでは分からない。
お昼に朝の小鳥を思い出して、ネットで【オレンジ 野鳥】と検索した。
すると、“ジョウビタキ”だということが分かった。
(なんと直感が当たっていた......!)
ジョウビタキのオスは胸からお腹にかけてオレンジ色、頭は銀色で顔は黒い。
名前の“ジョウ”は銀髪を意味する「尉」から、“ビタキ”は「火焚」から来ていて、火打ち石に似た鳴き声が関係しているらしい。
光沢のある黒い翼に、白い斑点があるのが特徴。
白い斑点を着物の紋に見立てて、“モンツキドリ”という別名もあるようだ。
(感じ取った雅な雰囲気も、あながち間違いではなかった!)
ちなみにメスは茶系の落ち着いた色をしていて、写真で見てもすぐに見分けが付く。
翼の白い斑点は雌雄共通。メスは腰から尾の下側にかけてオレンジ色をしているらしい。
オスは大胆に、メスはさりげなく、
温かみのあるオレンジ色で、冬をほんのり色づかせてくれるお洒落な鳥。
こんなにも美しい鳥が身近にいることに新鮮な喜びを感じる。
連日の沁みるほどの寒さについ芋虫のように縮こまりながら過ごしていたけれど、寒い今だからこそ、こんなにも素敵な冬鳥に出会えた。
晴れて少し気温が高い日は、公園で散歩するようにしている。
池がある公園なら、池にも寄っていく。
想像するよりはるかに冷たいであろう水の中を、しずかに進みゆく鳥の群れが、勇ましくて綺麗だ。
マガモやコガモ、キンクロハジロにカイツブリ。
池から突き出た杭の上で、一羽だけ身じろぎせず佇むカワウ。
どんなに離れた場所にいても、清らかな白さが真っ先に目を惹く白鷺。
池に集う鳥たちは大きさも色もさまざまだ。大家族のように集団で泳いでいたり、池の淵で眠っていたり、岸に上がって食事をしたり。
寒さをはねのけ生き生きと過ごしている。
時には、大集会でもひらいているのか次から次へと鳥たちが池に飛び集まって、ガーガーグワグワと議論を交わし合っている。
雪が降った翌日の一部が凍っている水面に、カモが羽を広げながらなめらかに着水し、そのまま真っ直ぐ泳いでいく姿はたくましく、寒さを忘れて見入ってしまった。
ちなみに大寒の日は、私の最も推しの鳥“シマエナガ”の日でもあった。
白くて丸い愛らしい姿は、思い浮かべるだけでたちまち癒やされてしまう。
冬の鳥たちについて調べていたら、“駐車場の鳥”ことハクセキレイがかつては冬鳥だったことを知った。
淡い色合いと長い尾のシルエットが美しく、ちょこちょこ走る細かい動きはギャップがあって可愛らしい。
あまりにもよく見かける鳥なので、姿を見つけると「よっ! 元気?」というような親しみをこめながら目で追ってしまう。
今朝も、元気に駐車場を走り回っていた。
去年の秋に受けて落ちた試験を、先週再受験した。
後悔だらけだった前回とは違い、やれるだけのことをやり切った。
今度こそ羽ばたけるだろうか。
春を目指して、冬を渡る。
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