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あり得ない日常#97
またあれから軽く寝てしまっていた。
寒い季節のローカル線、それも年季の入った電車の暖房は座面まで熱いと感じるくらいに少し強めだが、外気ですっかり冷え切った身体を委ねるに適したものの上位に入るだろう。
「そろそろ降りますよ。」
この言葉で自分が、今いる場所を実感させてくれた。
ひとりだったらまたどこまで行ってしまっていたことやら。
夢と同じ車両で、同じ路線の上だったからか、またあの男女の夢を見ていたようだ。
由美さんの名前の由来はおじいさんがつけたもので、そういう想いがあってのことだったとは。
由美さんとは別に、また男の子が生まれていたら、どんな人だったのだろうと想像してしまいそうになるところで、生憎目的地に着いたらしい。
さあ、と促されて向かうのは自宅ではなく、クリニックへ。
自ら向かうのは月1回のペースで、色々と先生に話を聞いてもらうのだが、前回はどうだったかな。
一応、予約を取ってくれているらしいが、待合室に数人診察を待っている人がいる。
「少し混んでいるようですね。
何か飲んで待っていましょうか。」
ありがたくもそう気遣ってもらえるので、お茶を所望する。
紙コップだが、コーヒーと紅茶、それにお茶を待合室では頂けるようになっているので、少し長めの待ち時間にはありがたい。
「あの行先の電車によく乗りますよね。他の行先もあるのですが、おかげで助かります。金額もそんなに高くありませんしね。」
そうか、定期券を持っていないんだった。
「何か思い入れがあるんですか?」
そう尋ねられるが、いつも職場に向かう電車だと答える。
「そうでしたか。電車の車両に何か思い入れでもあってずっと乗ってるのかなとばかり思っていましたよ。」
たしかに、もう何十年も使われている車両だ。
勝手も変わらないので、無意識に使い続けていたが。
「もう新しい車両を生産する力はありませんからね。外国にはまだその設備が残っているところもあると聞いていますが。」
なるほど、よく考えれば昔はずいぶん山奥だと感じていた場所が、今では通勤圏内にある。
「だから、もう残されたものをひたすら整備して使い続けるしかないんだよって、いつもの駅員さんが話してましたよ。」
自動車にも車検というものがあったが、今ではそうした事情もあって使える物をしっかり使っていくというスタイルになっているから、ああしたとんでもなく古いものが大事に今でも使われている。
さてそんな話をしていると、どうやら順番が回ってきたらしい。
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。