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あり得ない日常#48
その人が、本当に賢いかどうかは文章を見れば大体わかるのではないだろうか。
まるで鏡のよう。
とはいえ、人間賢さだけがすべてではない。
人生にとってお金がすべてではないという感覚と似ているかもしれない。
食べ方が汚い人を嫌う人は多いだろう。
似たような人物なら気にしないかもしれない。
だからと言って、わざわざ食べ方を直せと指摘する人物は、その人の身内くらいではないだろうか。
他人なら、わざわざ指摘して波風を立てるよりも、何も言わずにそっと離れたほうが良い。
指摘して、"はいそうですか"と直るくらいなら誰も苦労はしない。
極端な話、刑務所すら必要なくなるだろう。
さて、ストレスなく限られる自分の人生の時間の中で付き合っていく人物を探すとすると、そのあたりから入るのが間違いなさそうではある。
逆に誰とも関わるのが嫌なら一人でいればいい。
「へえ、そんなことがあったんですね。」
新人の藤沢さんと事務所の機械たちを目の前に、わたしがこの拠点を任される前の話になっていた。
井上さんは、この後来ると言っている。
藤沢さんは畑違いの仕事をしていたと言え、専攻と趣味がこちら側なために覚えが早い。
ひと回り年上で、男性と二人きりというのもその過去の事を思い出させるが、チャットなどのやり取りの中でそんな人じゃないなと、監視設備も信頼して今こうしている。
そもそも、あまりそう言う事を気にしていないように見せて、気を遣わせないようにしたいという思いもある。
ついでに、わたしが仕事を教わった時にペアを組まされていたあの先輩の話もしておこう。
大体の事は引き継げるくらいに伝え終えたと思うが、まだ何かあるかな。
無停電電源装置を追加してほしいのだが、株式の上場が未定になってしまって資金繰りも、色々慎重になっているらしい。
倒産した所で、みんな最低給付保障制度生活になるだけの話だ。
バッテリーからでる電流をインバータを介して・・、これが限りなく正弦波に近い出力ができて・・、という話を今してもチンプンカンプンだろう。
「荷物の再配達依頼の電話をやたらしつこくかけてくる人がいたんですよ。」
うわあ、それは大変そうだ。
今度は藤沢さんの過去話を自然に聞きに回っている。
「昔からある名の知れた会社に勤めている人らしいんですが、結局便利屋さんみたいな業務になっていて、お客さんからの普段のストレスを私たちにぶつけるみたいな、そんな理由だったみたいです。」
一度依頼したら、おとなしく待っていればいいものを、まだかまだかとやたら催促していたらしい。
結局トラブルになり、順番があるからと仕事柄わかりそうなものなのに、わざと聞く耳を持たない人間もいたという。
やりたくもない仕事をやらざるを得なく、生活のために生きている時代だと、人間も荒むものなのだろう。
そんな話をしているとあっという間に時間が経つ。
あとは携帯端末のアプリでモニターできることの話をしつつ、今後は入れ替わりでこの拠点の管理を担当できそうだ。
彼も毎日来る必要は無くなる。
結局、わたしが一番楽をできる形になってしまうが、大丈夫だろうか。
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在する人物や団体とは一切関係がありません。