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あり得ない日常#72
「そうか、それでその先はどうだったんだい?」
いろいろなパターンがあったと思うが、そう大して変わらない。
覚えている限りはこうだ。
後に先輩から疎まれて退社に追い込まれる
急な腹痛でトイレから出られなくなったことにする
結局元に戻り、先輩らのいいように扱われる
先輩含む女子会員から疎まれ、嵌められ、男性のいいように扱われる
会社ごとすっぱり辞めて引っ越し、新たな人生となる
そう思い出しながら順に話すと、しばしの沈黙となる。
「それはまた、ずいぶんな目に遭ったんだね。」
こうは言ってくれるが、おそらく本気にはしていないだろうとどこかで「まあそんなもんさ」と考えている自分がいる。
そういえば、と思わず切り出した。
足元にからみついたビニール袋をちゃんとコンビニのゴミ箱に捨てるか捨てないかで展開が変化したことだ。
あれは汚かった。
あまりの状態にコンビニに入るや否やトイレに駆け込んだために、そのまま店を去るわけにもいかず、本当は必要のないペットボトルのお茶を買って出たほどだ。
百円でもおしいくらいに切羽詰まっていたくせに。
「おお、そうなんだ。どう変化したのかな?」
それは、と言葉を濁す。
一言でいえば世界が滅亡していた。
またしばしの沈黙が流れる。
ああ、それでも完全に滅亡したわけではなく、ギリギリ生き残っている人たちが過去の遺産を頼りに逞しく生きていた。
「滅亡ってすごいなと思って言葉が出なかったよ。滅亡するかしないかという変化なのかい?」
そうではない。
どちらにせよ、世界はさらに多くの水で満たされる。
二酸化炭素がと言うが、世界の活火山を含めた自然が排出する量に比べて人類が排出するそれはごくわずかである。
ただし、人間の経済活動で気候変動が起こっていないとは言い切れない。
要因はひとつ、地球が永い年月をかけて蓄積、深い地中に圧縮封印した化石資源を大気に放つ、また厄介な物質を利用し続けた結果といえるだろう。
しかし、自分自身もその恩恵にあずかってこうして便利に生活しているわけなので文句など言えるわけがない。
したがって、あの光景が真実のものとなるのであれば、おそらく避けることはできないだろう。
そこまでなんとか考えを巡らせたところで、だいぶ疲れたようだ。
それを察した先生がもう帰って休むよう言ってくれる。
「今日はこの辺にしておこうか。」
はい。
そういえば、あの世界に生きる幼馴染はその後どうなるのだろうか。
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※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は、実在するものとは一切関係がありません。架空の創作物語です。