ファンティエットの海に春は来ない1
「季節外れの春嵐の訪れ」
心地よい初夏の風に青い葉が揺れる。
この初夏の風はファンティエットの内陸まで海の匂いを運んでくれる。
しかし、海は近くに見えるが、俺はまだ海を知らない。
それはファンティエットの海はベトナム共和国(南ベトナム)の領区だからだ
俺はVõ Văn Xuân(武文春)
出身はビンディン省だが幼い時、両親と共にファンティエットへ移住した。父はベトナム各地で解放運動に携わり、俺が15の時に家を去った。母は父とは離婚したと思っており、俺の苗字も母のVõという名字で名乗っていた。
俺は18になるとすぐに解放戦線へ志願した。
理由はいろいろあるけどやはり1番の理由は家を去った父が何を考えていたのかをしるためだ。
身体能力、判断力の試験を合格したあと武器庫へ案内された。
そこにはたくさんの銃が並べられていた。俺は初めて見る銃に興奮し子供のようにはしゃぐ胸を抑えるのが精一杯だった。
その中で一際心を掴んだのはアメリカの短機関銃だった。
持ってみるとずっしり重いがそんなことも気にならないほどかっこよかった。
俺はすぐにこの銃に決めようと思った。
(違う)
なにか心の中でそう聞こえた。
銃を戻し隣を見るともう1つ同じ銃が置いてあった。
俺にはその銃がとて輝いているように見えた。
俺はその銃を持っていくと
解放戦線の隊員「その銃は無理だ。君は背が低すぎて使えないよ。」
と言われた。
俺がそんなことはないと思った。意地を張っているわけではないが俺はこの銃なら戦えると思ったからだ。
スアン「これで練習させてください。だめだったら他のにします。」
俺はそういった。
一通り使い方を習い100m離れた的を狙うことにした。俺は狙いを定め引き金を引いた。
パパパーン
想像以上の反動と音で思わず目をつぶってしまった。
周りは静かになっている。
不思議そうに的のところまで行くと弾は3発とも的に収まっていた。
解放戦線の隊員「まぐれにしてはいい腕だな。今日からこれは君のものだ。クリーニングの仕方を教えるから俺について来い。」
俺は初めておもちゃを買ってもらった子供のように銃を抱えるとその男の後ろについていった。
解放戦線の隊員「おい!スアン!」
スアン「はっ、はい!なんでしょうか....?」
解放戦線の隊員「安全装置かけ忘れているぞ!」
スアン「あっ、すっ、すみません!」
俺の入隊の初日はとりあえず順調(?)に進んだようだった。