マロオケのこと vol.1
ひらめきというか、直感というか、降りてくるものというか、そういうものがある。
それらにも精度があるにせよ、特別なひらめきがあって、それが降りてきたときはわたしは迷わず実行することにしている。
「マロオケで、モーツァルトの交響曲を、サントリーホールで、やる」
そういうことをひらめいた。いや、降りてきた。ともかく、そう感じた。それが2014年の12月だっただろうか。
マロオケとはNHK交響楽団のコンサートマスター、篠崎史紀さんがトップとなって、国内プロオーケストラから名手を集め、指揮者を置かずに演奏するという特別なオーケストラ。
‟マロ”と呼ばれる篠崎史紀さんの特設オーケストラだから、「マロオケ」という。
メンバーはマロさんと気の合う仲間たちであり、それだけでなく演奏技術は最高水準にある奏者を集めたもので、文字通りオールスターオーケストラ。各オーケストラから目の敵にされてしまうかもしれないけれど、正直に言うと、トップ奏者だけを集めたから、どのオーケストラよりも上手い。
何せ、バイオリンパートのほとんどはプロオケのコンサートマスターばかりなのだから。
マロさんがN響のコンマス、そして読売日本交響楽団コンマス長原幸太、同じくアシスタントコンマス伝田正秀、広島交響楽団コンマス佐久間聡一、東京交響楽団コンマス水谷晃、神奈川フィルコンマス崎谷直人、新日本フィルコンマス西江辰郎。
その他のパートも各プロオケの首席者ばかりで、しかも指揮者なしで交響曲をやるのだから、マロオケというのは普通じゃない。
しかし、マロオケは概念でしかない。事務局があるわけでなく、企画が立ちあがって、実行者がいて初めて実体を持ち、メンバーを集め、演奏することができる。
そのマロオケでモーツァルトをやりたいと思い立った。
しかも、曲数は6つ。モーツァルトだけを6つ。
通常のコンサートではモーツァルトはサブメインとして使われることが多く、モーツァルトの交響曲オンリーで、しかも6つもやるコンサートはない。
しかし、わたしはモーツァルトだけを6つ、マロオケで聴きたかった。こよなく愛するモーツァルトの、さらに愛している交響曲を選んだら6曲になった。
交響曲6つを演奏するとなると、演奏者はくたくたになるに違いない。特に管楽器は大丈夫だろうか。内容としては2公演分を15分の休憩2回だけで、一気に演奏する。
しかし、告白すると、そんな心配は実は決まった後に出てきたもので、この企画を思い立ったときはそんなことは何も考えなかった。
これが実現したら、見たことがない、聴いたことがないようなコンサートになるのは間違いないという異様な興奮だけがわたしにあった。
ひらめいて、これはイケる!と思ったときは、すぐに行動する。確信が得られるものは迷いがない。逆に迷うアイデアは詰めが甘いか、おそらくは自分がそのアイデアを溺愛していない証拠。
マロオケのアイデアをわたしは自分で溺愛した。それが猛烈な行動力のエネルギーになる。
早速、NHKホールのマロさんの楽屋を訪れ、マロさんにこう言った。
「今からわたしが言うことは可能か不可能か、答えてほしい」
頷くマロさんに、
「マロオケで、モーツァルトの交響曲を6つやりたい。曲目は、25番、36番、38番、39番、40番、そして41番ジュピター。場所はサントリーホール」
マロさんは感嘆した様子で、
「おもしろいこと考えるね!」
しかし、可能か不可能かの答えはすぐには出なかった。
「まず…」
と、クリアしなければならない課題をマロさんはわたしに提示した。
(vol.2に続く)
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