物書きとマジシャン#44
「大事な話が、なんだかすごく迫力を感じました。」
アレクはすっかり立ち疲れていたのだろう。足を曲げ伸ばししながらそう言うが、ザルツさんが誰かを商団に誘う場面など見たことが無い。
珍しかったねえ。
「すごくたくさんのお金を持っている人だったんですね。」
それだけじゃないでしょうね。
「どういうことです?」
あの通訳の人もただ者じゃないかも。
「通訳の人と言えば、その時だけ雇う人というイメージがあります。」
そう言われてみればそうだね。奴隷なら主人の後にどこまでもついて回るしかないけど、そうじゃなさそうだったもんね。
「僕と師匠みたいなものでしょうか?」
あはは、そうかもしれない。
でも、どちらかというと役割を分担してる感じがしたなあ。
「そういえばザルツさんも言ってましたね、役割りって。」
アレクにもアレクの役割りがあるんだよきっと。
「僕にもですか?」
そうだよ。
「僕の役割りかあ、何でしょうね。」
え?
「あ、いや、僕には何もないっていう意味じゃありませんよ。
師匠の弟子としてこの先に何があるのかなあって思って。」
ぼくの弟子じゃ不満ってこと?
こう、少しいじわるを言う。
「あーうー、違います。
なんと言えば良いんでしょう」
あはは、まあそのうち見えて来るでしょ。
そういえばアレク。
「はい」
今日の取引でイリス金貨4枚くらいの儲けだったんだよ。
「え!4枚もですか?すごい!」
メイサ金貨にしちゃえば2枚と半分くらいなんだけど、どうしようか。
「どうしようってどういうことですか?」
ほら、畑に興味を持ってたじゃない?
「ああ、バーナックさんの時の話ですね。」
そうそう。商売としてやってみたいのかなあって。
「そうですね、興味はありますけど僕一人じゃあ。」
まあそれはそうか。
「あんなにほったらかしの畑を耕して、まともに収穫できるようになるまで何年かかるかってバーナックさんも言ってました。」
バーナックさんがそんなことを。
思ったより何倍も大変そうだ。
「でも師匠。」
なに?
「イリス金貨で4枚くらいって言っても、イナホをそのまま持ってるんですよね。」
うん、そうだよ。
「じゃあ、変なことはしない方がいいんじゃないですか?」
やっぱり?
「はい。イナホじゃここではパンも買えません。」
お、やっぱりアレクにはアレクの役割りがあるんだよ。
「え、どんなのです?」
教えない。
「ええー?」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。