物書きとマジシャン#32
「あ、おかえりなさい。
今日は遅かったですね、何かあったのかと思いました。」
ごめんごめん。
ちょっと話し込んじゃっててさ。
アレクが店のテントに入り込んだ落ち葉を片づけてくれている。
「何かトラブルですか?」
まだ時間が早いので、お隣のご主人たちも来ていないようだ。
「…なるほど。」
ね。イリスの交換はアレクにも任せているから、わかるでしょ。
「そうですね、確かに冷静に考えてみるとずいぶん上がってますもん。」
毎日やってると慣れちゃって逆に気づかなくなるのかもね。
「人が増えましたからね、そのせいだとばかり。」
いやあ、僕もそうだよ。
ザルツさんに言われるまで意識してなかったんだから、まだまだだねえ。
「それで、ヴォルフさんですか?」
そうなんだけど、どっちみち会合で話をするでしょう。
平時でイリス2枚を超えちゃったら、みんな騒ぎになるだろうし。
「そもそも金と銀の含有量に大した差は無いんですよね?」
そうなんだけど、若干イリスが少なめになってる気がする。
多分、金貨と銀貨でやってるから、それも追い打ちだよね。
「うーん、それにしてもまた、
よりにもよってこの時期ですか。」
イリスは初冬に街が煌びやかになる宗教祭があるから仕掛けてきたって見方もできるけど、そんなに簡単に出来る事じゃないしなあ。
「どのくらいいきますかね。」
そうだなあ、年明けには3枚だってあるかも。
「ええ?
それ、ザルツさんに話してます?」
まだ言ってないよ。
パニックになっちゃうじゃん。
ところでちょっと考えたんだけど、うちのお店で金貨20枚持ってるかどうかってところなんだよね。
「はい、露店商としては持ってる方ですかね。」
他に持ってる権利は、皮紙が年に5枚くらい配当があるってくらい。
「2枚くらい増えたんでしたっけ。」
そうそう。
それで、畑かそれに近い土地を買えないかなあって思ってさ。
もちろん全部使うつもりはないよ?
「あ、そうか、イリス金貨かサウス金貨で交渉すれば…。」
そう。ちょうど年明け頃に取引をすれば本来の半分くらいの負担で手に入れることが出来そうだよ。
「それも、メイサの土地じゃないと毎年税金取られちゃいますね。」
そうなんだよなあ。
誰か売ってくれそうな人がいればいいんだけどね。
「一番の問題はそれですね。
あと、通貨高が公に知られていないうちに済ませる必要がありそうです。」
ややこしいけど、ね。
「もし畑が手に入れば、面白くなりそうです。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。