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物書きとマジシャン#30

 当時十歳程の子供にとってはあまりに魅力的な選択肢だ。

 しかし、暴力はもちろん人身売買まで蔓延る世界を生きる子供には、あらゆる大人に対して不信感しかない。

「父は、何を考えていたんでしょうね。」

 まだアレクが産まれる前だったし、商売を手伝ってくれて、何かあったら任せることが出来る純粋な存在を探していたのかもね。

 今はアレクがそうしてくれているように、やっぱり複数人で動くことって何かあった時を考えても大事なんだよ。


「それで、何て答えたんです?」

 もうなんとなくわかると思うけど、小麦がいいって答えたな。

「そうだと思いました。
蒔いて栽培できれば、多くを収穫できますからね。」

 それもそうだけど、実際その選択肢は人によって正解が変わるんだよね。

「どういうことです?」


銀貨10枚

「これはわかりやすいですね。」

 そうだね。
ただ、十歳にも満たない子供がそんな大きなお金を持っててもまともに使えるとは限らない。

「ああ、街が荒れてるときならなおさらですね。」

 どうかしたら、どこから盗んだって因縁をつけられたうえに没収されるのがいいところでしょうね。

 だけど、今のアレクや大人であればこの銀貨を元手に何か始められるかもしれないけど、おそらくは多くの人のように、ただ貯金したり、消費したり、浪費して終わりかもしれない。


クリーウ牛のステーキをお腹いっぱい

「王室にも納められているというクリーウ牛ですね、僕もまだ食べたことがありません。」

 子供がお腹いっぱいになる量だからそんな大したことないんだけど、それでも夢のような話だよ。

「一回口にしたら、他の肉が食べられなくなるかもしれませんね。」

 あはは、またあのスープ生活には間違いなく戻れないなあ。
ずっと吐いちゃうかもね。


「この場合、ひと時の幸せで終わってしまいますね。」

 そうだね、でもいい大人で商人なら、ある程度の人脈とノウハウを持つ師匠と食事する時間を得ることが出来るから意味はありそうだよね。

「そういう意味ですか。」

 貴族の子供なら普段の生活にも困っていないし、この選択肢を選んで終わりかな。


身体の重さの半分ほどの小麦

「なぜこの選択肢を選んだんですか?」

 さっきアレクも言った通り、蒔けばより多くの小麦を得られるからね。

 僕は孤児院みたいなところにいたって言ったけど、やっぱり早くそこから抜け出したかったんだ。

 でも最低限、寝床と食事がある状況は大きい。

 当時の僕にとっては他の選択肢は意味が無いもので、唯一望みが叶いそうな選択肢と言えばこれしかないよね。

 どこに蒔くかはともかく、少しくらいその小麦を食べることも出来る。

 さらに、一旦蒔いてしまえば自然の物だから、枯れない限りほかの人達の決定に結果を左右されない。

「僕も自分の畑が欲しいですね。」

 物々交換にはやっぱり何といっても食料が優秀だと思う。


※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。


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