物書きとマジシャン#22
「メル、なーに書いてんだ?」
ほうきで店の周りをいつものように掃いていると、ちょうどいい長さの棒が転がっていたので、コインの絵柄を何となく描いているところだった。
あ、いや、すみません。
「別に謝るようなことじゃないだろう。
あれか、サボってたのか?」
商館が襲撃に遭ってから、まだザルツさんの回復を待っているうちはお金を預けに行くことも出来ない。
そのため、しばらくは金貨や銀貨を見せてもらうのもお預けとなる。
高価なものになるほど細工が細かくなるため、普段お目にかかることが無い分、いざ手元で目にすると見蕩れてしまうくらいにすっかり気に入ってしまった。
「お前も、技巧を凝らした美術品や工芸品が好きそうだなあ。」
うーん、確かに自分はそうかもしれない。
師匠、
「…ああいう貨幣はどうやって作られているか、か?」
わあ、お見通しですね。
「ろうそくは火を灯すと溶けるだろう?」
はい。
「金属も同じで熱すると溶けるのさ。」
そうなんですね、あれ?でも鍋は溶けません。
「ははは、それで溶けると困るよなあ。」
なにもかもが台無しになってしまいます。
「溶ける温度は物によってそれぞれ違うのさ。」
モノによって違う?
「そうさ。ろうそくや獣の脂なんかは簡単に溶けるだろう?
銅や鉄も石炭を使ってとにかく熱くすれば、はちみつみたいにドロドロになるのさ。」
へえ、そんなになるんですか。
「そのドロドロになったタイミングで、型に流し込む。」
型ですか。
「そうだな、溶けたろうそくの蝋を適当な器に流し込んで待てば、固まってその器の形や模様の蝋が出来るだろう?それと考え方は同じだな。」
へえ、それは見てみたいですね。
「その代わり蝋のように簡単じゃない。
地獄のように暑くなるから、大変な仕事なのさ。」
そうなんですね。
「あとは金属加工の細工師が偽造防止のために、高価なものほど削ったりして形を整えるわけだ。」
面白そうです。
「ははは、自分は何に興味があるかを見つけるのはいい事さ。」
紋章とかがあの固い小さな金属に見事に刻まれているのを見るのは面白いと思いました。
「そうか、じゃあそれはイリスの金貨に刻まれている紋章か?」
足元の砂地に描いた絵をのぞき込んで師匠が言う。
はい。
「そしてこっちは…」
これは、、
「…メル、これはザルツが見せたものの中にあったのか?」
ええ、あとは僕が一人の時に来たあの人の持っていた銀貨の絵柄です。
そんなに細かいものではありませんでしたけど、気になっていたので。
師匠?
「ん、ああ、すまん。
ぼーっとしちまった。」
お疲れでは。
「いや、そうじゃないんだ。
メル、おまえにはしっかり俺の代わりが務まるように覚えてもらうからな。」
ええ?どうしたんですか。
「まあ、遅かれ早かれお前にはアレクを引っ張っていってもらうくらいになってもらわんと困るからな。」
ああ、そういうことですか。
「そうだ。それとも何か?
今までさんざん俺の傍で、俺の人生と変わらんものを見ておきながら、はいさようならで済むと思ったか?」
うっ。
「そんなタダで、しかもわざわざ手の内を知り尽くした商売敵を作るようなバカはおらんだろ。」
…はい。よろしくお願いします。
「よろしい。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。