物書きとマジシャン#40
すっかり寒くなって雪がちらつき始めた。
北と東に大きな山が控えるこの街は、南から少しずつ海抜が高くなる地形になっているため、標高が若干高い。
幸い、北の大きな山が壁のような役割を果たしてくれているので、テントごと埋もれてしまうほど雪が積もるのは滅多にないらしい。
そのため、この場所が何にもないだだっ広い雑木林だった時代に、四方から行き来するかつての商人たちが休む場所として少しずつ開拓したのがこの街の始まりだ。
店裏は仕切ってあって仕入れた物や道具、水桶や食糧なんかも置いている。裏をくぐれば共用ではあるが用を足すところも備えてあって、普段を過ごすには不便が無い。
メイサの生活水源は地下水で、今はアレクが街に数か所ある井戸から適宜、必要な分の水を汲んできてくれる。
先日会ったバーナックさんの井戸の水には敵わないので、大体は沸かして飲むのが常識だ。
あの水をこの街に届けることが出来れば、みんな喜ぶだろうな。
「師匠―。」
店裏でお湯を沸かしつつ、暖を取っているとアレクが呼んでいるようだ。
どうしたの?
「お客さんがイナホってものを交換してほしいっておっしゃってます。」
へえ、どれどれ。
お待たせしました。
「やあ、あなたが店主さんかい。
ここで両替をしてもらえると聞いてね。」
珍しい装いの人を連れて、声をかけてきたのは通訳だろう。
ええ、イナホと伺いましたが?
「そうなんだよ。
他では難しいからってここを案内されたんだ。」
構いませんよ、何をご所望で?
「これからイリスに向かうところでね。
イリスにこれを全部替えてはもらえないかな。」
そうして台に置かれたのは、紙と金貨のようなもの。
アレクがこれを目にして「え?」っと反応する。
ぼくもかなり久しぶりに目にするが、アレクは初めてか。
それぞれ枚数を確認するために手に取ると右手中指の指輪が反応を示す。
普段は何の変哲もない小さなガラス石がついた指輪だが、それらを持つと青く強弱輝いて見える。
――金貨は扱いづらいでしょう、どうなさいます?
「半分は金貨にしてもらおうかな。
そうすれば、イリスでも扱えるだろう。」
かしこまりました。
ところでいかがでしょう、金貨の分は道中の危険を考えてイリスの街でお受け取りになられては?
「そうだね、そうしてもらえると助かるよ。」
では払い出しの証書を用意しますので、この後ご案内する商館でお受け取りくださいね。
「商館かい?」
はい、お手数ですが金額が金額ですし、イリスで受け取る際のご案内もさせて頂かないとご不便かと。
「ああ、なるほどそれはそうだ。」
ですので、商館でお茶でも召し上がっていただきながらお話しさせていただければと思いますが、お時間のご都合はいかがでしょうか?
「それはいいね、かまわないさ。
この時間だし、今日はこの街で宿を取ることになっているからね。」
それでは早速。
アレク、羊皮紙を用意してくれ。
今から商館に行こう。
「は、はい。
念のため2枚用意しますね。」
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。