物書きとマジシャン#27
さて、立派な建物が並ぶ通り沿いからまた別の団体に属する人たちの露店通りを抜けると、自宅の近所にさしかかる。
そろそろ本格的に寒くなってくるし、桶に張った水が氷るくらいにはなるから、薪を十分に調達しておかないと。
できれば炭も欲しいところである。
ウエスから来た人の話によれば、十分高温に耐えうる"鉢"のようなものに炭をくべて熱源として使えば、暖炉やストーブのような役割をするだけではなく、竈のようにちょっとした調理も出来るという。
藁の敷物が多い私の寝床の大きな不安点は、可燃性が高いという致命的な問題がある事だ。
もし、そんなコンパクトなものなら、うっかりしたときには地面の砂を思いっきり被せて火を消してあげればいいし、便利そうなので見てみたい。
アレクも好物のヴォルガの干し肉を包んでもらってご機嫌のようだ。
そこに乾いた銃声が響いた。
!?
同時にダンッと傍にあった小屋の壁に当たったようで、木と銃弾の摩擦のせいか木と火薬のような香ばしい香りがツンと漂ってくる。
アレクッ身を低くして!
あたりを見渡すが、どうにも暗くて見えない。街中だと何かしらの明かりが灯っているからわかりやすいのに。
誰かに狙われているのは確かだが、身に覚えはない。
となると、金銭目当ての強盗の類だろう。
師匠ならどうするだろうか。
命の危機迫った、行動と選択によってはここまでかもしれない事態に、心臓の鼓動がうるさくなり、頭に過剰に血が巡っているのがわかる。
せめてアレクだけでも何とか生かしてあげたい。
瞬間、アレクが私の服の裾を思いっきり引っ張り、小屋の裏へと回り込んでいく。
「まだ、建物が守ってくれるはずですが、多分向こうもこっちから逃げると読んでるかも」
少し声が震えているが、冷静なのはさすが師匠の息子だからだろうか。
師匠ならここからどうする…!?
「父ならここからどうするでしょうか...。」
同じことを直感で考えたらしい。
お互いに少しばかり余計な緊張が緩んだ瞬間だった。
「二発目がありませんね。
足音もしません。」
オオカミのような毛皮の靴を履いていれば足音は聞こえないはず。
油断はできない。
「この小屋には人がいる気配がありませんね。」
入ると扉の音で勘づかれてしまう。
かといって畑に出るのは、的にしてくれと言っているようなものだろう。
二人縮こまってしばらく様子を窺う。
誰かが近づいてくる気配も無ければ、風の音くらいしかしない。
強盗の類ならとっくに姿を見せているはずだ。
とはいえ、わざわざそこまでして奪う意味があるような、まとまったお金を持ち歩いている人はこの街では稀だろう。
命を狙われてるのかなあ。
「なんで?そんな価値ありますかね僕らに。」
間隔があるものの小屋伝いには移動できそうだ。
ただ、柵を乗り越えたり樽に乗ったり、地道に静かに移動する必要がある。
向こうが待っているのは、身を潜めた私たちが観念して表に出てくることだろう。
そう思い通りになってやるもんか。
多分、肥えだと思われる大変な香り漂う樽に落ちないように身をこなしながら、なんとか自宅の方へと距離を縮めていく。
もし、そのまま自宅へと入れば、相手に襲撃の機会を与えてしまう。
遠回りして裏から入ろう。
オオカミの遠吠えが聞こえる中、こんな思いをさせてくれた顔も知らない襲撃者に銃弾のお返しをぜひしてあげたいものだと心から思う。
「あと少しです。」
ちょっとここで様子を見てから家に入ろうか…。
「そうですね。」
もう嫌だ、しばらく夜に出歩くのはやめとこう。
※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空であり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。
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