【遊月パワスポ物語】豊川稲荷札幌別院
はじめに
パワスポに行くと自分の記憶ではない誰かの思いがふと入ってくることがあります。
そのイメージを元に時々物語を書いています😊
パワスポ物語〜豊川稲荷札幌別院(札幌市)
すすきのの片隅にその神社はあった。
鳥居があったから神社だと思うけれどお寺みたいだし、よくわからないままお参りをしに一歩足を進めた。
この辺はかつて遊郭だったから、悲しい女性たちがたくさんいたのだと、かなり昔誰かに聞いた。
この場所には、生まれることのできなかった子どもたちの供養の碑もあったりして、ほかの場所とは違う雰囲気なので気後れしてしまう。
だから入るのには勇気がいた。
鳥居の近くまで来ても、なんだかおどろおどろしくて引き返したくなった。
でも勇気を出してふらふらと入った。
何か新しい力を与えてくれそうな気がしたのだ。
一歩入ると、中は穏やかで優しく出迎えてくれているような空気があり、鳥居の外と雰囲気が違った。
御朱印をもらうため立ち寄った社務所で対応してくれたお姉さんが優しそうな人で、いろいろなことを教えてくれた。
御影守がとてもきれいだったのでひとつ欲しいと伝えると、
「願いが叶うからら、靴を脱いで本殿に上がって直接お願いしたらいいわ」
と説明された。
半信半疑のまま私は本殿に上がる。
まるで本当に生きているかのような強いパワーを放つ白い狐さんがそこにいて、ちょっと怖い気もした。
狐さんは怖いよと聞くけど、本当に大丈夫かな。
でもあの優しそうなお姉さんが嘘をつくとは思えず、勇気を出して願いを伝えた。
神様、ダキニ天様、どうか願いを叶えてください。
頭の中に、菩薩様のようなイメージが浮かぶ。
どんな神様かはよく知らないのだけれど、この前読んだブログに、「弥勒菩薩が世界を救う」と書いてあったことを思い出す。
それが本当なら早くそうなってくれたらいいのに。
だけど、まだまだ先のことで、その頃私は生きてはいないだろう。
私の子どもの子どもの、その先の時代にはもしかして、と考えたらとても悲しくなった。
うっかり自分がしあわにせなることを祈ってしまったけれど、私はしあわせになっていいのだろうか。
「ちゃんとお願いできた? 」
帰りの挨拶のために社務所に寄ると、お姉さんがそう声をかけてくれた。
「私、とても許されないことをしたんです。だから、しあわせになっちゃいけないと思うのです」
うつむきながらそう伝える。
「お守りはお守りとして大切にします」と頭を下げて帰ろうとすると、
「どんな罪を背負おうともね」とお姉さんは言った。
「改心したのなら、あとはしあわせになっていいのよ」
意外な言葉に私は顔を上げお姉さんを見た。
「あなたは罪をちゃんと悔い改めている。そうでしょ? 」
「わかりません。でも、あの時は他に方法がなくて。選びたくて選んだわけじゃないけど、でも選んだのは私で。
もしも違う道を選べていたら、こんなにずっと辛くなかったのに。
どうして違う道を選ぶ勇気がなかったんだろうって、そればかり考えてしまって…」
何度も自問した言葉。こらえたけれど涙が浮かんで景色がにじむ。
「罪は罪。それは消えてなくならないかもしれない。だけど、それを抱えて生きていくと覚悟を決めたなら、太陽の下を堂々と歩いていいと思うよ」
「そうでしょうか」
そう質問すると、お姉さんは菩薩のような優しい顔で微笑んだ。
「ここで祀られているダキニ天様はね、昔は人を食べるような存在だったの」
「人を食べた? 」
神様として祭られているのに、そんな過去があるなんてと驚いた。
「でもね、改心して、今ではこうして福の神様として祀られているのよ」
驚いて言葉が出なかった。人を食べていたのに、福の神様になったなんて。
「そんなお方が、罪を犯したと自分を責めているあなたのしあわせを望まないと思う? 」
いいえ。いいえ。
涙が零れてしまった。
「しあわせになってもいいのかな」
御影守を握りしめたまま手の甲で涙を拭いた。
お姉さんはその私の手のひらをそっと開いた。
「見て。優しいお顔をしていらっしゃるでしょう」
御影守の中央は鏡になっていて、そこにダキニ天様が描かれていた。
「ほんとうだ」
かつて罪を犯したかもしれないけれど改心して、今はこんな慈愛に満ちたお顔で人の願いを叶えている。
そんな神様のところに偶然やってきていたなんて。
「さっきお願いしたことを毎日思い浮かべてみてね。
それが絶対叶うと信じてみて。ダキニ天様はきっと叶えてくださるから」
はい、と頷きながら私はやっと心から笑えた。
豊川稲荷をあとにして、いろんなことを考えたくて、鴨々川を辿り中島公園まで歩いた。
柳の下のベンチに腰掛けて菖蒲池を眺めながら、御影守をじっと眺める。
大学一年の時に恋をした。
とても真剣に付き合っていたはずだったけど、あることをきっかけに相手は豹変し、そのため私は悲しい決断をしてその人と別れた。
その決断を生涯の罪として背負っていこうと思った。二度と恋もしないと決めていた。
私の中に宿っていた大切なものを葬った罪とともに生きていくと。
あれから七年が過ぎた。
時々ふと辛くて押しつぶされそうになる。
誰かを好きになりかけたこともあったけど、昔の自分が今の私を責め立てる。あなたは人に愛される権利はないのだと。
何度も謝ったし、何度も自分を責めた。
どこかでずっと救われたかった。
もういいよと誰かに許してほしかった。
それがいいのか悪いのかはわからないけれど、とにかく前に進みたかった。
終わりのない日々に決着をつけたくて、あの鳥居をくぐった。
何かが変わったわけじゃない。
自分を許せるようになったわけじゃない。
だけど。
お守りの鏡の部分に浮き上がるダキニ天をじっと見る。
改心して福をもたらす神様になった。
そのことが私を救ってくれる気がする。
ダキニ天様。ありがとうございます。
そして願わくば、今度こそ、私のすべてを受け入れてくれる、責任感のある人と出会いたい。
できれば心から愛して愛されてしあわせになりたいです。
しあわせが何を指すのかはわからないけれど。
生きていてよかったと、そう実感したいのです。
鼻の奥がつんとして、涙がこぼれそうだった。
永遠にここに座っているわけにもいかないので、お守りを鞄にしまい、美しい池のほとりから離れるため私は立ち上がる。
駅に向かって公園の道を歩き始めた。
たくさんの人が歩いていた。だけどその人はとても目立っていた。
突飛な行動をしていたわけでもないのに、まわりからひとりだけ浮き上がり、その周りが銀色に光っているように見えた。
なぜか心臓がドキドキした。
「日下部さん」
その人は私の名を呼んだ。隣の部署の営業の江端さんだった。話したことはほとんどないけれど、女子社員に分け隔てなく優しいと、なんとなく耳にしていた。
「あ、お疲れ様です」とお辞儀をすると、いや俺今、仕事中じゃないしと笑う。
「写真でも撮りに来たの? 」
笑顔でそう尋ねる。
「写真って何のですか? 」
「今流行りのSNS」
「ああ」
首を振りながら
「そういうの、一切やっていないんで」
と答えると、
「あ、俺も」とさわやかに笑った。
「この池が好きで、時々見に来ているんです」
あまりにさわやかだったので恥ずかしくなり、何か言わなくちゃと思った。だけど何も思いつかずついそう口にする。
「俺も、この公園すごい好きでさ、用もないのによくぶらついている」
「そうなんですか」
ちょっと嬉しくなったけど立ち話するほどの仲でもないので、じゃあとお辞儀して先を行こうとすると、
「もし時間があるのなら、少し話しない? 」
「え? 」
「すぐ近くにいいカフェあるから」
「もしかして」と私は思い浮かんだカフェの名を告げると、
「そこ、俺よく行くところ」と笑った。
「私もです」と私も笑った。
ああ、神様。ダキニ天様。
とりあえずこの出会いに感謝することを先にお伝えします。
未来のことは知らない。だけどさっきまでとは、世界の色が少し変わったことだけはわかった。
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