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『不思議な春の夜と「終わり」を感じた夏の日』初稿版

─春の夜─

通過待ちの駅で、一旦ホームの待合室に出た。電車の外の空気を吸いたくて。それで疲れを感じているのを、紛らわせようとした。

別の車両から、若者が降りてきた。私の目の前にあるドアの前で何秒か立ち止まり、なぜかもう一つのドアから待合室に入ってきた。若者が座ったのは、一つ置いて隣の椅子。

私は目を見張った。
そっくり……!
遠い昔に恋した人に、あまりにも似ている。

でも、当時のその人よりも若い。話してみると、声の高さも違った。別人なのは明らか。
なのに、「その人」にわかりそうな話を振ってみる往生際の悪さ。

発車時刻が近づき、降りてきた時とは別の車両に乗り込む若者。偶然にも、私が乗りたい車両。
若者の後を追うようにして、待合室と同じ距離を保ちながら座った。会話は、次の駅で私が降りるまで続いた。ほんの数分だけれど。

私が電車を降りる時、一瞬、一緒に降りるような動作をしてくれた理由は、都合よく解釈してもいいの……? 降りる駅はもっとずっと先のはずだし、乗り換えも必要なのに、一瞬でも降りようとしてくれた。

望んでも再会できない人の代わりに、ほんの束の間、そっくりな若者を会わせてくれたのかと思うような、不思議な出来事。


─「終わり」を感じた夏の日─

望んでも再会できない人との時間を過ごした建物が、まだ残っていた。もう取り壊されたと思っていた、あの建物が。

駅との距離を、勘違いしていたんだね。今日のような酷暑の日、駅まで一緒に歩いたのは途中からだった。
取り壊されたんだと思ったあの日、一緒に歩き始めた地点に建物がなくて、勘違いをしたんだ。

同じ建物で時間を過ごしていても、不思議と同時に出て一緒に歩く機会がなかったよね……。
あの時も同時には出なかったけど、途中から駅まで一緒に歩けた。一度きりでも。

まだ残っている建物を見て、ようやく「終わり」を感じることができた。
そっくりな若者に会えたことは、きっと「終わり」の前触れだったんだ。

あの時は、嬉しかったよ。
さようなら。


2018年9月30日午前3時45分・51分、『不思議な春の夜と「終わり」を感じた夏の日』の改稿版を、ポータルサイト「アルファポリス」にて公開しました。
なお、改稿時に『不思議な春の夜と“終わり”を感じた夏の日』と改題の上、二部作仕立てにしました。
同サイトの「第11回 エッセイ・ブログ大賞」にエントリー済みです。
投票期間は10月1日~末日です。よろしくお願いいたします。

(2020年5月7日 追記)
なお、エントリー後に「番外編」を追加し、三部作仕立てとなりましたが、思うところあって、「番外編」を削除しました。
現在は、オーディオブック配信プラットフォーム「Writone(ライトーン)」のオーディオブック『不思議な春の夜と”終わり”を感じた夏の日』のみで「番外編」をお楽しみいただけます。


※この作品は、初稿版・改稿版ともに「Writone(ライトーン)」で音声化されています。
初稿版は『サマータイムサマータイム』のブック、改稿版は『不思議な春の夜と”終わり”を感じた夏の日』のブックに収録しています。




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