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私はお餅をたくさん食べたかったの!

 忘れもしない小学校四年生の時、大須・万松寺商店街から少し外れた場所のうどん屋さんでの出来事。

 店頭で目にした、お雑煮の見本にときめいた。
 お餅がたくさん!(^^♪

 入店前に注文を決めた私は、メニューを見ている母と祖母にこう言った。
「トイレ行ってくるから、お雑煮頼んでおいて!」

 その声は、カウンター越しに、お店の人にも聞こえたはずだ。まさか違う物が出されるとは思いもよらず、席に戻ってお雑煮が来るのを、わくわくしながら待っていた。

 「はい。餅入りみそ煮込みね。」

 驚いた私は、母か祖母が頼んだ物を、間違って私の前に出されたのだと思った。
 「私が頼んだのは、お雑煮だよ。」

 お店の人・母・祖母、大人達三人が顔を見合わせて言う。
 「なんか変だと思ったけど、やっぱりそうなの? 餅入りの味噌煮込みうどん好きだし、いつもそれ頼むから、それのことだと思ったんだけど……」と、勝手な解釈をした言い訳をされた。

 お店の人は、「作り直そうか?」と言ってくれたけど、母や祖母がカッコつけて「いいの、いいの、こっちが間違えたんだから。」と、餅入り味噌煮込みうどんを私に押し付けた。

 何で? お母さんかおばあちゃんが食べてくれればいいでしょ? お雑煮、作ってくれるって言ってるのに……!
 その不満を口にできないほど、泣きそうになった。好きな餅入り味噌煮込みうどんが、その時だけは、嫌な食べ物になってしまった。


 たっぷり食べたかったお餅の数は一個しかない。その貴重な一個を食べようとしたら、祖母の目が光った。
 「お餅、美味しそうだね。どれ、おばあちゃんにもちょうだい!」と、半分取り上げられてしまった。

 どれだけ子供心を傷つければ、気が済むのだろう? どれだけ鈍いのだろう? お餅をたくさん食べたいから、お雑煮を注文してと言ったのを、勝手に別の物に変えておいて、一番食べたいお餅を、半分取り上げるなんて! ひどすぎる! それなら、自分が引き受けて、私にお雑煮食べさせてよ! お店の人も作ってくれるって言ってるのに!

 そんなことができる祖母が信じられなくなったし、本気で恨んだ。亡くなったあとも、こうして恨んでいる。
 それに、大人が三人も揃って何なの? 変に思うなら、確かめればいいじゃない! トイレの時間は、決して長くはなかった。こんなことになるなら、注文してから行けば良かったと、心底悔やんだ。

 それ以来、祖母や母に誘われても、そのお店は嫌だと拒否した。お店の人だけが悪いわけではないし、私達三人分の売上が減ったのは、被害と言えば被害かもしれない。
 大人になってから、一人でそのお店の前を通りかかっても、入る気にはなれないまま月日が流れ――結局、その「事件」の日を最後に、そのうどん屋さんの思い出が終わっている。

 食べ物の恨みは恐ろしい。そして、純粋な子供心を傷つけた代償は大きい。お金を払う立場でなくても、お金を払う立場になっても、二度と入ってもらえないかもしれない。連れて行った大人達も、そこまで大きな心の傷を残してしまう罪を背負うのだ。


 いくらなんでも、お雑煮と餅入り味噌煮込みうどんの区別がつかないわけ、ないじゃないの!



【あとがき】
 この作品は、note学園創立者・逆佐亭 裕らくさんのエッセイ『海老天クライベイビー』のコメント欄で生まれました。コメントとして体験談を書いたら、「これ、最早エッセイだわ!」という展開に。カット&ペースト(コメント欄で「コピペ」としているのは誤り)して編集の上、エッセイとして投稿しました。
 作品が生まれるきっかけは、どこにあるのかわからないし、どこにでもあるのかもしれませんね。

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夕月 檸檬 (ゆづき れもん)
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