Milano Design Week 2024の記録と雑感
こんにちは。フィンランドのAalto大学大学院にデザイン留学をしています、Mayuです。
タイトルの通り、ミラノデザインウィークを見に行きました。ちょうど大学でEvaluation Weekと呼ばれるピリオド間の休みと重なっており、丸1週間滞在することができたものの、全く見切れず、改めてその規模の大きさを感じることに。ですが4月のミラノは既に初夏の陽気で、今年はお天気も良く最高でした。
今年で62回目の開催となるミラノサローネ国際家具見本市は、毎年4月にミラノで開催される世界最大規模の家具見本市です。毎年その開催に合わせミラノ市内でさまざまな企業やデザイナーによる展示が行われ、このイベント全体がミラノデザインウィークと呼ばれています。
私が初めて参加したのは二年前で、その年は海外渡航の規制が緩和されたばかりだったこともあり、特にアジア系の訪問者は少ない印象でした。ですが今年は本当にたくさんの人で溢れかえっていて、しかもその活気と熱量が1週間丸々続いていたのだからすごい。今年のミラノサローネの入場者数は約36万2000人だったそう。
この記事ではざっくりと展示を振り返っています。
7回目の開催となるAlcovaは、一昨年は軍事病院、昨年は家畜の屠殺場と毎年ユニークな会場を設定しており、今年はVilla BorsaniとVilla Bagatti Valsecchiの二つの会場に分かれています。Villa Borsaniは、ミラノを拠点とした建築家Osvaldo Borsaniの自邸であり、建物自体が文化財に登録されています。1945年竣工当時のアーティストやデザイナーによる作品が建物内に残されており、建物を見るだけでもかなりの価値があります。それもあってか、今年のAlcovaの混雑ぶりはすごくて(Villa Borsaniは小さいので一度に入場できる人数が限られていたというのもありますが)、Villa Borsaniの入場には2時間ほど並ぶことに。それでも、建物だけでなく展示もかなり見応えがあり並んだ甲斐がありました。
続いて最も賑わっているエリアの一つ、ブレラ地区。エルメスでは、広大な暗闇の中に16種類の異なる伝統的な床パターンが敷き詰められていて、その間に渡された橋を進んでいくという斬新なインスタレーションを展開。これらのパターンは自然由来の素材で、イタリアの伝統的なパターン、そしてエルメスのデザインとリンクしているそうです。「賑やかなミラノデザインウィークの喧騒を離れた静謐な空間を来訪者に提供する」という主旨の説明がされていたのだけど、今年はキャプションのあちこちで「meditation(瞑想)」に触れているものを見た気がする。
ブレラ地区で毎年楽しみにしているのが、Dimore StudioとH+O Apartment Gallery。同じアパートの中にあるので続きで見られるし、両方ともかなり見応えがあります。H+O Aparment GalleryはMUUTOとのコラボレーションだったのだけど、色の組み合わせのセンスが素晴らしかった。Dimoreは毎年五感の演出にもこだわっていて面白い。Dimoreといえば、中央駅から少し外れたエリアにできたDimore CentrareとDrop Cityの展示は、高架下の薄暗くやや治安の悪い地域を再開発して盛り上げていく目的もあったと聞いていたけど、初めて訪れた三年前からあまり全体的な印象は変わっていないような気も。
Spazio MaiocchiではCapsuleの創設者でありクリエイティブディレクターのAlessio Ascariと建築家Paul CournetのキュレーションによるCapsule Plazaが。 アルミと再生可能エネルギーを扱うノルウェーの会社Hydroによるアルミの展示、ベルリンのK67によるモジュール設計のKioskを初め、どこか未来感のある展示でした。エスプレッソマシーンメーカーとコラボレーションしたRIMOWAによるカフェも内装がとんでもなくスタイリッシュで、おまけに無料でエスプレッソを提供していたのも素晴らしい。
中心部からしばらく南下していった工業地帯では、Formafantasmaによる展示、"La Casa Dentro"が。椅子や照明、タンスといった家の中のオブジェを扱っており、その内容はかなりアートピースに近いような印象も受けました。説明によれば、男性優位的で合理性を優先するモダンデザインの暗黙的な規範への疑問と再考をテーマにしているそうです。
Formafantasmaの会場から少し歩いた距離にあったのが、素材会社のDzekとの展示。デザイナーのChristien Meindertsmaとのコラボレーションによる、何度でも溶かして再生可能なリノリウムを使用した階段のインスタレーションは静かな力強さがあってとてもよかったです。マテリアル系の展示はけっこう印象に残りづらいイメージがあったのだけど、これは帰ってからもずっと記憶に残っている。
隣り合っていたFaye Toogoodの展示もよかったのだけど、Faye Toogoodの展示といえば別会場で見たcc-tapisの新作ラグとTacchiniのための家具の展示がより印象的でした。これらのラグは人間の身体、とくにセクシャルな部分をモチーフにしているそうです。壁にかけられていた、彼女による"いたずら描き"がラグのデザインになっている。
展示の印象深さでいえば、カーペットメーカーのAMINIとデザイナーElisa Ossinoによるコラボレーション、Abstract Gardenもとても美しかった。
思いがけない行列に出会ったのが、ARTEMESTによるl'Appartamento。20世紀初頭の貴族の邸宅を会場に、6つのインテリアデザインスタジオ (Elicyon、Gachot、Rottet Studio、Studio Meshary AlNassar、Tamara Feldman Design、Vshd Design)が、イタリアの伝統との融合をテーマに各部屋のインテリアを担当している。面白いのが、アメリカ、英国、クウェート、メキシコなど国際色豊かなデザイナー達が揃っていること。
Palazzo ViscontiでのFLOSのインスタレーションでは、鏡張りされたメインホールの各部屋にMichael Anastassiades のIC 10 Anniversary、Barber Osgerby のBellhop Glass、Formafantasma のSuperWireがそれぞれ割り当てられていました。鏡の効果もあって照明への没入度が高まることで、照明による雰囲気や感じ方の違いがより意識されるようでした。
Baranzate Ateliersでは7000平方メートル超の巨大な工業敷地内に、十数組のアーティストやデザイナーの展示が集合。石や木などの、スチールなどの素材感を全面に出した迫力あるものが多かったです。全体的に粗野っぽさがありながら、広大な空間もあいまって、オブジェがじっと佇んでる様がかっこ良くすごく良い空間でした。無骨だったり工業的な雰囲気が剥き出しだったり、いわゆる「綺麗な仕上げ」がされていない生活感のないものが、日常のオブジェと組み合わさる様も不思議な魅力があります。
Triennaleで行われていたInga Sempéの展示 'la casa imperfetta(不完全な家)'は、個人的に一番素敵だった展示の一つです。スタイリング自体はすごくかっこよくて「全然不完全じゃない」のですが。キッチンのサイドボードに貼ったメモとか棚の書類とか飲みかけみたいに見えるコップとか、なんとなく自分の日常とオーバーラップして、統一感がなかったりもするけれどお気に入りの物に囲まれた、自分だけの安心できる空間づくりの喜びを思い出させる温かさがあり。コンセプトやメッセージ性が強いものがやたらと多く感じられるこの頃で、もっと自由で余白があっても良いよな、と感じてしまいました。
ほんの一部の記録になりますが、このあたりで。物の多さ、人の多さ、情報量の多さに圧倒されてその時はあれもこれも良いな、と感じるものの、帰ってしばらくすると本当に心に残ったことだけをずっと覚えているのは面白いです。
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