
ロバが主人公の映画「EO」
5月に観に行った、ロバが主人公の映画「EO」
について書こうと思う。
この映画を観る前に、ポール・ギャリコの
短編小説集「スノーグース」を読んだが、
二つ目の物語「小さな奇蹟」にもロバが出てきて
ロバに親近感を感じて是非観に行きたいと思った。
「EO」はイエジー・スコリモフスキという
ポーランド人の監督の作品で、監督のロバへの
親しみや優しさが感じられた。
EOというのは主人公のロバの名前である。
最初はサーカスに所属していて、そのサーカスの
共演者の若き女性カサンドラが優しく接してくれていた。
彼女とのシーンが、温かい感情を沸き起こさせてくれる。
しかしある日、動物愛護団体からの抗議で
サーカスから出ることになり、悲しくもカサンドラとも
引き離され牧場に送られる。
しばらくして、その牧場からも逃げ出し、
あちこちを彷徨い、行く先々で様々な人々に遭遇し、
人間の事情で崇められたり理不尽な目に遭わされたり
しながら、それでも運命のままに生きていく。
でも、EOが一つだけ自分の意志で行動したことがあり、
それは逃げ出すこと。これ以上ここに居るべきではない
と思うと立ち去っていく。逃げるという行為は、
我慢してずっと居続けるということに対して、むしろ
積極的な行為であると思った。
それぞれの人間ドラマについては詳しい説明はないが、
気がつくとこちらもロバの目線になっていて、
感情抑え気味に観察するように映像を見ていた。
EOは、人間の優しさ温かさ愚かさ滑稽さを
淡々とを観ているかのようで、それでもきっと
何かを感じたり察したりして、時に温かさや痛みを
充分に感じているように思う。
たまにカサンドラとの回想シーンの映像が
短く映し出される。動物は感情は長く持ち続けない
かもしれないが、優しくしてくれた人のことは
よく覚えている、というようなことを
監督は伝えたいのかなと思った。
ラストはどうなったか、何かを暗示しているだけで
鑑賞者の想像にゆだねられている。
監督の動物や自然に対する愛護の気持ちが表れていて、
芸術としても詩的な情景が映し出され、
何よりも、物言わぬロバの純粋な眼差しが印象的な
素晴らしい映画だった。
主人公のロバは一頭だが、実際に撮影では
6頭が演じた。ロバと言えば馬と比べても地味な
印象の動物で、人間に働かされて荷物を背負って
歩いているイメージがある。犬や猫のように
可愛がられる存在でもなく、労働を象徴していて
ロバに愛情は与えられているのだろうかと
疑問に思うような印象がある中、
このような映画で主人公として抜擢され
映画館の中で注目を浴びたことが、大袈裟だけど
これまで生きてきた全てのロバに対する鎮魂にも
なったような気がする。
