
【異文化】日本人は国際成人力で世界トップなのに、経済成長率でビリなのはなぜ?
OECD国際成人力調査で日本はトップの成績
最近のニュースで、OECD国際成人力調査の結果が発表された。今回行われたのは、第二回の調査で、2011年に第一回調査が行われている。第二回調査は、31の国・地域で行われ、全体で約16万人が参加する、大規模な国際レベルの調査である。(日本からは約5,000人程度が参加したとのことである。)
日経新聞記事による。(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE026QN0S4A201C2000000/)
今回、日本は総合評価で世界第二位となった。第一回の評価も第一位だったとのことなので、この「大人の学力」テストにおいて、日本人は世界トップレベルということになる。
この結果は、私の肌感覚とも合い、特に違和感は感じない。世界の色々な街を訪問、また28年間に渡り5ヵ国で仕事・生活をした経験からしても、日本の「大人の学力」はトップレベルだと思う。
例えば、電車の運行1つみても分かる。世界の先進国の大都市には、必ず鉄道があるが、日本ほど正確に運営されている国をみたことがない。郵便や宅急便のオペレーションにしても同じだ。日本では、配送遅れや荷物の紛失を経験したりすることはまずないが、世界の先進国では、配送遅れや荷物の紛失を経験したことがない人はいない。つまり、全員経験する。更には、荷物がみつからなくなり、問い合わせをしても、要領を得えず、大切な物の場合は、郵便本局とかに出向いていって、face to faceで粘り強くお願いして、なんとか荷物を手に入れることができるというあり様である。
それ以外にも、コンビニの商品管理レベル、ショッピングモール、レストランのサービスレベル、そして、エアコン等の修理。何を取っても、日本のレベル、信頼性は断トツで、日本以外の世界では、なかなか日本のようにスムーズに物事は進まない。話しがなかなか通じずに、フラストレーションを抱えることも多い。これは、海外に住んだことのある人や、出張、旅行などで、何かトラブルに合った人は、皆、日本に比べて著しく劣る応対やサービスレベルに驚いたことがあると思う。
仕事においてもそうである。期限のあるもの、在庫や販売数量などの数に関するものなど、細かい管理が必要な業務は、日本のオフィスでほとんどの人が完璧にこなす。海外の場合は、完璧にこなす人は稀で、かなりの頻度で、数字にエラーがあったり、資料が期限通りでてこなかったりという具合である。このあたり、日系企業の現地法人で働いていると、現地ローカルスタッフの仕事力の低さに最初は驚くことになる。
こうした面から考えると、日本の「成人力」がOECDでトップレベルというのは、多いに頷けるところである。
過去40年にわたり、日本のGDP成長率は世界でビリ
一方で、日本人が優秀という事実がありながら、ここ40年余りのGDPの成長率で、日本が世界で最下位。賃金の上昇率も同じく、世界で最後尾となっている事実をどう理解するかである。

つまり、現代においては、「国民の能力が粒ぞろいで、皆平均的に優れている」という状況が、必ずしも経済発展には有利に働いていない。同じものを、大量に品質よく作ること、若しくは、現行のものをその延長線上で改善して、継続して良くすることなどには、「粒ぞろいで、平均的に優秀な日本人」はとてもよいパフォーマンスを出した。その路線で成長できた産業、例えばガソリン車、オートバイ、家電、カメラ、ユニクロ、文房具などは、日本が圧勝している領域となる。(但し、こういった領域でも、改善の幅が年々小さくなっている物に関しては、韓国、中国の低コストに攻められている)
しかし、現代の経済を牽引している、IT、インターネット、EV、宇宙開発、AIなどは、新技術の発展が激しく、飛び抜けた技術や才能を擁する、個人、企業が大きく産業をリードする傾向がある。結果として、これらの分野は、GAFA + Tesla + ChatGPTに代表されるように、ほぼ全てアメリカ企業が牛耳っている。その結果、アメリカは、世界第一の経済大国でありながら、経済成長率においても、世界のトップクラスを維持し続けているのである。そのアメリカのOECD国際成人力テストの順位は、20位程度あり、真ん中あたりのポジションとなっている。
GAFA + Tesla + ChatGPTは全てアメリカ企業であり、アメリカの1人勝ちである。よって、日本だけでなく、アメリカ以外の国は全てGAFA時代に負け戦となっている。しかしながら、特に日本がGDP成長率においては最下位という不名誉なことになっている。世界トップクラスの成人力を持ちながら、世界で最下位の経済成長率、これは大いに問題があるところである。大いに議論をして、少しでも経済成長率を向上させるようなアクションを試みる必要があると思う。
2大政党がないのが日本の大きな弱点の1つ
私の見立てでは、「優秀な成人力」を持ち、かつ、世界で圧倒的な産業(韓国、中国に押されだしているとはいえ)を擁する日本の経済成長率が過去30に渡って世界最下位の理由の1つは、政治の能力だと思う。日本の政治能力が世界で最下位クラスなので、こういう経済成長率になっている。世界の多くの国は2大政党の元に、与党が数年単位、長くても10年程度で替わるのである。それは、どんなに優れた政党でも、何年か与党運営すると、かならずパフォーマンスが落ちるということを表している。独裁政権でもないのに、1つの党が30年に渡って(正確には2年ほどだけ替わったが。。。)与党を維持している国というのは日本だけである。ここが、まず、日本の大きな弱点だ。与党の政治家が本気で日本の将来を憂えるのであれば、野党に合流することである。
もう1つの大きな課題が日本の教育である
VUCA時代に合わない、学歴社会に順応した教育方針
日本は、学校教育/社会教育において「均質的に優秀な学力」を育成する傾向がる。そして、その短所として、「突出した個性や才能」を抑制してしまっている。
平均的、同一的な能力が求められる環境では、特別な才能や創造性を持つ人が埋もれてしまいやすい。画一的な能力が重視されることにより、異なる視点や価値観が失われ、変化や未知の課題への対応力が弱められる。
VUCAの時代に合わせ、日本の学校教育、社会教育をUp dateしなければならないところに来ていると思う。
日本の学校教育は、そもそも学歴社会で成果を上げるために最適化されている。つまり、大学入試に向けての、暗記を中心としたテスト対策が学校教育でもっとも重視されている。模擬テストの点数、偏差値などが最重要KPIとなっており、そこに多様性について議論をしたり、異なる視点や価値観について考察を深める時間などは、ほとんどとられていない。この点は、教育内容をVUCA時代に合うようにUp Dateさせなければならない。
世界でも奇怪な新卒一括採用という制度
また、世界200ヵ国中、日本だけが、新卒一括採用というユニークな制度を国、企業をあげて行っている。こんなことをしている国は他にはない。他国では、学生が卒業した後、更に興味のある学問・芸術・スポーツに時間を費やしたり、起業をしてみたり、世界旅行にでかけたり、留学したりと、学生が各々の意思で、多様な活動に時間を使う。
そうした、フレキシビリティのある自由な時間のなかで、個性や多様性が磨かれることになる。ところが、日本の場合は、大学卒業から大手企業入社は一本道であり、大学卒業とともに全員就職していく。就職しない者は、変わり者扱いとなる。レールから外れることなく、学生は真っ直ぐに会社に入り、そのまま1つの会社とその会社文化の中でキャリアを終える。
海外の場合は、例えば、大学卒業後に就職せずに起業に挑戦。そして2-3年で失敗してから大企業に入り直す。若しくは、大企業で数年働いてから、スタートアップに挑戦、数年頑張って上手くいかなかった場合、再び大企業に転職し直すなどの、柔軟な職業観を若手が持てるような社会になっている。
同じものを、大量に、安定した品質で作っていた時代では、新卒一括採用がワークしていたのかもしれないが、これもVUCAの時代をにらみ、多様性が育まれ、特別な才能や創造性を持つ人が力を発揮しやすいような制度にすべきだと思う。まずは、単純に、政府と大企業が新卒一括採用を止めればよいと思う。
まとめ
OECD国際成人力調査で日本は2011年の第一回に続き、2023年調査結果でもトップの成績を出した。これはとても喜ばしいことだが、残念ながら、ここ40年の経済成長率は世界でビリである。これは、日本の教育、社会制度をVUCAの時代に合わせてUp dateさせなければならないというシグナルだと思う。
現在の「均質的に優秀な学力」「画一的な学力」を多少揺るがすことになってしまうが、より特別な才能や創造性を持つ人が、その能力を伸ばしやすいような教育環境、社会制度を、日本は急速に立ち上げる必要がある。これまでの、高品質だが画一的という流れから、多少品質のばらつきがでてしまっても、多様性が保持され、多くの人がもっと色々なことに挑戦でき、ひいては、特別な才能や創造性を持つ人がそのポテンシャルを発揮し易い社会に変えていかなければならない。
===
Apple Steve Jobsが、傾いたAppleを立て直した時の超有名なキャンペーンに、「The crazy ones」というのがある。クレイジーと呼ばれる人達が世界を前に進める。その人達のことをAppleはジーニアスと呼ぶ。
日本にも、Crazy onesが出てくるような教育、環境が必要になっているのだと思う。
「The Crazy Ones」
クレージーな人たちがいる。
反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に、丸い杭を打ち込むように
物事をまるで違う目で見る人たち。
彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。
彼らの言葉に心をうたれる人がいる。
反対する人も、賞賛する人も、けなす人もいる。
しかし、彼らを無視することは誰にも出来ない。
なぜなら彼らは物事を変えたからだ。
彼らは人間を前進させた。
彼らはクレージーと言われるが、
私たちは彼らを天才だと思う。
自分が世界を変えられると
本気で信じる人たちこそが
本当に世界を変えているのだから。
===
Kindle本出しました。Kindleベストセラーになりました。ポチッとお願いします。