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ニュージーランドストーリー

「ニュージーランドってさぁ、どういうイメージ?」

隣を歩いていたきみこが急にそんなことを聞いてくる。
会社の研修でシャトルバスの集合時間に遅れてしまい、徒歩で会場に向かう羽目になって、新人ふたりでトボトボと歩道を進んでいたところで聞かれる設問としては、急としか言えない感じのやつである。

「ニュージーランド……えー、ググっていい?」
「いや、ググったらだめでしょ、あんたのイメージ聞いてんだから」
「そうは言うけど、あんまりイメージない。ロード・オブ・ザ・リングのロケ地ってことくらい?あとナルニア国とか」
「お、なかなかコアなイメージ」
「まぁね、ファンタジー映画好きだし」

信号が一番悪いタイミングで赤になって、ふたりで立ち止まり、同時に舌打ち。思わず顔を見合わせて笑う。

「ま、そのあんたのイメージはどうでもいいんだけど」
「まじか、どうでもいいって言い切りやがった」
「あ、ごめん。割とどうでもいい、だった」
「それ、2mm位しか緩和されてないからな」
「1mm辺りどのくらいなの、心象的に」
「格ゲーで言うとリュウの弱昇竜とケンの弱昇竜のダメージの違い位」
「なんでわたしの知らなそうな格ゲーで例えるの?」

信号が青になって、再び歩き出すときみこはスマホで何かを検索しだした。前を見てないから危なっかしくてしょうがないけど、器用に対向者を躱していく。達人か。

「地形的には西日本もがれた日本っぽいんだよね、ほら」
「もぐなよ、西日本」

そう言いながら見せてくれたスマホ画面には確かにそういう感じの地形があった。もがれたか、西日本。

「昔ね、『ニュージーランドストーリー』っていうゲームがあって」
「へー、どんなゲーム?紀行モノ?」
「キウィが風船に乗って敵を倒していくゲーム」

進行方向を向いたまま、そこそこ素っ頓狂なことをいうきみこに思わず立ち止まり、聞き返す俺。

「キウィ?」
「そう、キウィ」
「キウィフルーツの語源になったキウィ?」
「そう、そのキウィ」
「……体の4分の1の大きさのタマゴを産むキウィ?」
「え、そうなの?!すげぇ!」
今ググった。産むのめちゃめちゃつらそう」
「えぐいよね。キウィ見る目変わった」
「あ、その他のとこに書いてあるよ、そのゲームのこと」

再び歩きながらスマホの画面を見せるときみこは、そうそうこれこれ、と言いながらリンクをタップしようとする。けど、歩調が合わないから狙いが定まらない。結局、あーもう、とか言いながら自分のスマホを操作する。

「キウィ、でググった?」
「うん、検索の最初に出る」
「あ、これか『キーウィ (鳥)』伸ばすのが正しいのね」

スマホ操作しながら歩いているきみこを苦々しげに睨みながら、サラリーマンが行き過ぎる。如何に達人と言えど、他人の心証まではままならん。やめよう、歩きスマホ。

「わーめっちゃいろいろ書いてある」
さっきのリンク先を見たらしいきみこが、喜びの声を上げる。

「にしてもなんで急にそのゲームのこと言い出した?」
とりあえず、気になってたことを聞いてみた。

スマホの画面から俺の方へ向き直ると、きみこは滔々と語りだした。
「話せば長くなるんだけど」
「このゲームのDSのやつをあにきが持ってたんだけどね」
「キャラクタがかわいいからわたしもやりたくて」
「あにきの目を盗んでは、何度となくトライしたんだけど」
「難しいのよ、これ」
「全然先に進めなくて、夜ごと枕を濡らす日々」
「実際そこまで泣いてたわけじゃないけど、比喩ね比喩」
「そんな感じでも、やってくとそれなりに進めてきて」
「ボス敵とかも倒せるようになって」
「ちょっとずつ楽しくなってきてた矢先に」
「あにきがクリアしちゃって、ソフトを売っちゃってさ」
「とはいえ、こっそりやってたから何も言えないし」
「あにきが売ったお金で次に買った太鼓の達人が面白いし」
「結局いつのまにか忘れてて今に至るんだけど」

「今に至った割に、こちらが欲してた肝心の情報がないな」
「あー、何だっけ。なんで思い出したか、ってこと?」
「そう、忘れ去りし記憶の鍵キーオブフォーガットンメモリーズ
「かっこいいな、それ」

なんだかんだで結構な距離を歩いたので、そろそろ会場も見えてきた。バスはまだ停まってるから、ギリギリアウト寄りで間に合いそう。

「まぁそれというのがね、このゲームの最初にアザラシが自分以外のみんなを連れてどっかいくのよ。自分だけ、ポロッと落とされて」
「あー、なるほど」
「あ、お気づき?今の状況みたいでしょ?」
「うん、落とされてはないけどね。俺ら遅刻だし」
「バスに乗れなかったとき、前もこんなことあったなぁって思って」
「思い返したら、ニュージーランドだったと」
「そうそう。まぁ実際はさらわれてたんだけど、ウィキ調べでは」

ようやく会場に到着すると、ちょうどバスが出発するところだった。研修は午後いっぱいまであるから、また後で来るのだろう。

「当時は自分だけ置いてけぼりなのかと思ってた」
「アザラシってだけで、いい人そうだもんな、仕方ない」
「ほんとはキウィを貪り食う狂気の巨漢だった……」
「この研修も実はブラック企業に貪られる新卒者の……」
「やばい、となるとわたしらがヒーロー?」
「そうなる。覚悟はいいか?」
「あたぼうよ!」

まぁ幸いなことに、ちゃんとした会社だったので、遅刻で普通に怒られて、始末書書いた。

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