ハードボイルド
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深めの椅子に身を委ね、煙草をくゆらす男。
年経ても尚、精悍な顔立ち。
その皺の一つ一つが、幾多の困難に打ち勝ってきた男の人生を語っていた。
トゥルルルル。
トゥルルルル。
トゥルルルル。
デスクの上の電話が男の一時の静寂を破った。
男は少し、間を置いて受話器を取り上げる。
「…誰だ?」
「もしもし、お父さん?」
「あぁ…、京子か。どうした?」
「今ねぇ、ファイナルクエストやってんの」
「ふむ」
「でね、わかんなくなっちゃって」
「…」
「“アルケミストの鍵”ってどこにあるの?」
「…今、どこにいる」
「エクソダス宮殿の前」
「…今から潜りこむのか?」
「そう。で、鍵が手に入れば、伝説の剣が取れるんだけど」
「そうか…。あせるなよ」
「でね、門の所にやたら強い敵がいるの。あいつ?鍵持ってるの?」
「ああ、鍵は奴が握ってるはずだ」
「やっぱり!じゃ倒してくる~」
「待て!俺が行くまで、そこにいろ」
「え~、お父さん帰るの遅いじゃない。大丈夫だよ~」
「…いや、駄目だ。危険過ぎる」
「あ、セーブして行けばいいでしょ」
「…そうだな、そこで区切りを付けた方がいい」
「セーブ、セーブ。あ、そうかー。空きブロックが無いや」
「そう、いい子だ。おとなしくしてろ」
「えーっ。あ!そうだ!」
「おい、めったなことはするなよ」
「じゃ、お父さんのデータ消すね」
「!! 待て、京子!」
「もうクリアしたからいいでしょ?」
「やめろ、京子!待つんだ!!」
「聞こえませーん。じゃ、セーブっと」
「!」
「あ、子機の電池切れそ。じゃね」
「おい、京子ッ!おいッ!!京子ーッ!!」
受話器を置き、がっくりと肩を落とす。
彼の中で、失われた物は大きかった。
再び、椅子に深々と身を沈める男。
窓から指しこむ月光が男の顔を照らす。
その頬には、光る筋が伝っていた…。
End...
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