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ハードボイルド2

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霧雨にけぶる街の夕刻。
足早に通り過ぎる傘を待たぬ人々。
その傍らを、男は一人、悠然と歩いていく。
つとに、内ポケットの中でくぐもった電子音。
男は立ち止まり軽く眉を顰めて、内ポケットから発信源を取り出す。

「…」

                                                     「もしもし、あなたぁ?」

「…あぁ、俺だ」

                                                     「帰りに、福神漬け買ってきて欲しいんだけど」

「…あぁ、わかった。それで…」

                                                     「今夜はカレーにしようかと思って」

「そうか。…それは楽しみだな」

                                                     「でね…あなたには言いにくいんだけど」

「?なんだ、何かあったのか?」

                                                     「…辛口にしちゃったのよねぇ~」

「?!なに?!」

                                                     「だって、京子が辛口の方が良いって言うし」

「…辛い、選択だな…」

                                                     「でも、辛口って言っても3倍よ?」

「…それは、もう仕方ないのか?」

                                                     「まだルーは入れてないから、甘口のを分けて作ってもいいけど…あ!ちょっと待って!」

「…」

しばしの沈黙。

                                                     「…電話してる間に、京子がルー入れちゃったみたい…」

「なんだと!?」

                                                     「しかも5倍のを」

「…くっ…! 状況は、悪い方に転がってるみたいだな」

                                                     「…どうする?何か、お惣菜とか買ってくる?」

「…あぁ。 なんとかする」

                                                     「あと、福神漬けも忘れないでね。売ってあるところ、判る?」

「なんとか、心当たりがあるさ」

                                                     「あ、ほんとに?あんまり赤くない奴よ。添加物少なそうな」

「あぁ、無論だ」

                                                     「じゃ、お願いね」

プツッ。

通話を終え、携帯電話をポケットに仕舞うと男は、小さくため息を吐いた。
そして、まだ止まぬ霧雨の中を歩いていく。
心なしか、肩を落として……

End

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