私がセフレ沼にはまるまでの話

彼氏との3度目の冬に、私から別れを告げた。向いてなかったなんて言うには長すぎたけど、私の恋愛は消費期限じゃなくて賞味期限のようなものだったのかもしれない。

格好つけてあんな風に書き出してはみたけど、他の人を好きになってしまったっていう、ありふれた話。でもその人には、彼女がいた。今別れても付き合えるわけじゃないし、一時の気の迷いだと思おうとしたけれど、彼氏への違和感とその人への想いは増していく一方で。3ヶ月くらい迷った末に彼氏とは別れることにした。

ようやく別れられたことですっきりしたけれど、すっきりしすぎて、私の心は空っぽになってしまった。空っぽになった心には、彼女がいる人を想い続ける力はなく、一度に二つの恋を失ったような気がした。その日、私は生まれて初めて、家で一人でお酒を飲んでいた。

ここまで読んで、これはセフレを好きになった話じゃないの?と感じた人も多いと思う。主人公は本当に、突然現れる。ただ偶然ラインをしていただけの彼から、別れたその日、まだ別れたことを誰にも報告していない私に、「電話しよう」の一言。あの電話の誘いが1日でもずれていたら今の気持ちは誰か他の人のものだったのかと思うと、悔しいような、可笑しいような、変な気持ちになる。

電話では別れた彼氏のこと、好きな歌のこと、兄弟のこと、性経験のことまで、夜中まで思わず長電話をしてしまった。明日、うちに来ない?怪しすぎるその誘いに乗ってしまったのは、夜のせいか、お酒のせいか、たぶんそんなんじゃない。この人なら私を変えてくれるかもしれない、なんてことをぼんやり思っていた。

"あなたは好きじゃない人とセックスができますか?"私の答えはイエスであり、ノーだ。電話からの急展開で初めて好きでもなんでもない人とセックスをした翌朝、不思議と後悔はなかった。私、好きじゃなくてもできるんだ。独り言のように言ったら少し悲しそうな顔をしたその人を、1ヶ月後には一番思い出すようになるんだけど。あの日は、気持ちよさと居心地のよさで、別れた彼氏のことも、好きだったあの人のことも忘れていた。

2回目に彼の家に行ったのは、2週間後。この日から私たちは"セフレ"になった。彼とのセックスはとても気持ちよかったから、単純に、またセックスしたいな、そんな気持ちで行ったつもりだった。混じり気のないはずのその気持ちがいつから置き換わっていたのか、よく覚えていない。2回目に行ったあの時には、もう好きになりかけていたんじゃないかな。こんどこそ私は向いてなかった、割り切った関係には。

セックスで心の穴まで埋めようとしたのが間違いだったのかもしれない。心の穴なんてもっと違うことで埋めて、身体の穴だけ埋めてもらうべきだった。ただ、趣味や友達では、心の穴すら埋めることはできなかった。まるっきり、材質が違ったから。またすぐ男が中心になる自分に嫌悪感は覚えたけど、私はそうやって生きていた。

私たちはそれから、何回も会った。彼の家で一緒に料理をしたり、ゲームをしたり、たまにはラーメンを食べに行ったり。それでもやっぱりセックスをしない日はなかった。セックス以外で繋がる自信がなかったからかもしれない。

時は経ち、彼氏でも友達でもない彼との2回目の冬が来た。相変わらずシングルベッドは狭いし、余計なものが少ない部屋だ。物にも、私にも、執着しない彼らしい部屋。また来てよ。じゃなくて、気が向いたらおいで。彼はいつもそう言う。私がまた来ることも知っているくせに、ずるい人だ。私がいなくなっても彼の生活は、きっと変わらない。たぶん私じゃなくてもいいから。

これからも私たちは、ひっそりと会って、ひっそりとセックスをして、いつか、他人になる。あるいは、恋人になれるだろうか。

文章はここで終わるが、肝心の私たちの物語の結末は、いつまでも先延ばしだ。もうちょっと、このままでいいかなぁ。

プレイリストに「恋人ごっこ」を追加しました。

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