〈マドンナベリー文庫〉から「官能小説の新しい実験室」第二期へのお知らせ。
〈マドンナベリー文庫〉第六弾『ノクターナルプレイグラウンド 私たちは淫らな秘密で繋がっていく』ですが、今回は復刻ということで、いつもの編者解説が異様に長くなりましたのと、レーベルからの重要なお知らせがありましたので、別ページにいたしました。
では、そのお知らせです。
……以上です!
早い話が、出版業界によくある「休刊という名の廃刊」なのかと思いきや、一時休刊を経て、2025年から別の出版社に移って新しいレーベル名で「官能小説の新しい実験室」第二期をスタートすることになりました。
なかなか珍しいケースですが、若干の弊害というか、以前掲載した〈マドンナベリー文庫〉創刊記念トークの2回目を載せようと思っていたら、その前にレーベル休止になってしまいました。
間抜けすぎるので、代わりに新しく別録りのトークを掲載いたします。
なお、雑多な話を整理するため、Q&A形式にしました。
〈マドンナベリー文庫〉創刊記念トーク②……改め、「官能小説の新しい実験室」第二期への現況と展望。
A/当然、びっくりはしました。
でも、休止自体はそれほどショックでもないんですよ。
もともと期間限定の実験レーベルとして始まっていて、惹句も「官能小説の新しい実験室」でしたし。
A/そう。隔月で2年間、全12冊を刊行してひと区切り。
続けるかどうかはそのとき考えましょうか、みたいな感じで。
個人的には、軌道に乗っていたら、そのままマドンナ社の担当さんに編集権を移譲して、ぼくは作家専業へ戻るつもりだったんですよ。
やっぱり小説を書きたいので。
A/マドンナ社の方に限らず、出版業界のひとたち、ぼくを編集者だと思っていても、小説家だと思っていないんじゃないかな……。
A/そっちのほうが知られているのが不思議だよな……と。
まあ、この歳になると、まず場所を確保しないと自分の小説も発表できないからレーベルを作るしかなかったのは事実です。
あと、「腕が立つのに新作を書く機会がない作家さんに依頼したい」という読者的な動機もあって、成り行きで引き受けたんです。
とはいえ、企画から校閲までワンオペ編集を続けるのは2年が限度かな、とは思っていました。
隔月刊とはいえ、やっぱり作家との二足の草鞋は体力的に厳しいので。
A/これもまた珍しい理由で、マドンナ社の担当さんが諸事情で辞められることになって、物理的に続行が難しくなったんですね。
マドンナ社内部での調整や事務作業は、やっぱり社員編集でないとできないですから。
A/マドンナ社も人手が足りなかったんですよ。
実際、担当さんが辞めて、マドンナメイト文庫のほうも一時的に編集長のワンオペになっていましたし。
そもそも、人手不足だったから、マドンナベリー文庫は完全外注で企画が立ち上がった、という経緯がありましたから。
A/いや、執筆陣は創刊広告を見ての通りで、半分くらいしか決まってなかったですね。
実は著者名を伏せて作品の仮タイトルだけ記していた方もいるので、5人ではなかったんですが、書くのが早いひともいれば、別の仕事の合間に書くスケジュールの方もいましたから、最初が夜ノ杜零司さんとぼく、という以外、明確な順番は決めてなかったです。
A/ちょうど、マドンナ社から話があった直後、久しぶりに夜ノ杜零司さんとお会いする機会がありまして、ダメ元で話したらOKをいただきました。
執筆陣の中で一番、プロの小説家なのは夜ノ杜さんですから、決まったら書かれるのは一番早かった。
発端になった『葉名と伯父さん』もあったけど、彼(ゆずはら)はマニアックなのでレーベルの一番槍ではないな、と思って第二弾にしました。
小学館ガガガ文庫創刊のときも第二弾(『十八時の音楽浴 漆黒のアネット』)でしたし。
そのあたりは、編者解説(あとがき)で書いた通りですな。
A/基本的に、編集者モードのゆずはらとしゆきは、作家モードのゆずはらとしゆきに対して、冷静というかシビアなんですよ。
マニアックなレーベルだけど、その中でも間口の広い作品を最初に出すのは当たり前のことで。
A/『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』は万人受けする艶笑喜劇ですけど、『葉名と伯父さん』は同じ喜劇でもジャンルが重喜劇なんですよ。
日活ロマンポルノで喩えれば、神代辰巳と西村昭五郎くらい違います。
A/夜ノ杜さんは『青春の蹉跌』や『赫い髪の女』になるけど、ゆずはらは『競輪上人行状記』や『団地妻 昼下りの情事』になるってことです。
『彼女について私が知っている二、三の事柄』が『団地妻 昼下りの情事』になるのは、だいたいのひとは首を傾げるけど、ある意味マニアックなことなんですよ。
A/森崎さんは電撃文庫から出した『桃瀬さん家の百鬼目録』というライトノベルで合作していましたので、作風を知っていたのと、ゼロ年代より若い世代の作家を入れておきたかったんです。
よく考えたら、若い世代の知り合い、あんまりいないので。
A/第三弾まで「おじさん×美少女」のカップリングが続いたんですが、『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』が42歳、『葉名と伯父さん』が48歳、『未来のイヴとその娘』が38歳だったかな。
うろ覚えですが、それぞれの年齢のミドルエイジ・クライシスというか、焦燥感が描かれていると思うんですよ。
A/『四十八歳の抵抗』という昔の小説に引っ掛けたんですけど、誰も気づかなかったなあ。
『花と小父さん』のほうは気づいたひともいたんですが。
そういえば、森崎さんはもともと、『桃瀬さん家の百鬼目録』の言い出しっぺだった日日日さんの紹介なんですが、ぼくは直接お会いしたことがなくて。
……というか、実は執筆済みの5人では、夜ノ杜さんとJ・さいろーさんは面識があるんですが、森崎さんと第四弾『本を灼く』の六花梨花さん、第五弾の高橋徹さんは会ったことがないんですよね。
A/それはその通り。
でも、六花さんも関西在住の方なので、お会いする機会がないのです。
依頼の理由自体は編者解説に書いた通りで、昔、六花さんがシナリオを書いていたアダルトゲームの同人誌を作っていたという因業なんですが、かつて勤めておられた会社には情報誌の取材で行っていたから、もしかしたらニアミスしていたのかな。
A/いつの話だと思っているんですか。25年くらい前の話ですよ。
それに、取材費を切り詰めるため、雑誌の担当さんが夜通し車を運転して東京と大阪を往復するんですよ。
何故か眠気覚ましのBGMが『ななこSOS』サウンドトラックの無限ループで。
「なんでそんなもん持っているんですか?」と訊いたら、「兄貴の部屋から持ってきました」と言われて。
A/担当さんの兄貴がテレビアニメの有名な監督だったんですが、おっさん二人が車内で『ななこSOS』聴きながら徹夜で大阪へ行くって地獄ですよ。
A/ちなみにその担当さん(♂)、さいろーさんに訊いたら、今はすごく偉くなっているらしいです。
部署の忘年会で酔っ払って「俺、フェラチオ上手いんだよ」と言って、本当に同僚(♂️)のアレをフェラチオしたものだから、会社ごと出入禁止にされて、社長から「俺も行く店なのに、なんてことするんだ!」と激怒されていたひとがなあ……。
A/高橋徹さんも、編者解説で書いた通りですね。
この小説、プロットに添えられていたキャラクター設定が履歴書形式だったのがすごく面白かったので、「そのまま載せましょう」と提案して、そういう演出を入れました。
A/ぼくはラブコメに一度挫折しているから、重喜劇という角度で通さないとラブコメという形式が信じられないんですが、純粋なラブコメが描けるに越したことはないと思うんですよ。
……というか、ぼくはゼロ年代初頭、毒にも薬にもならないラブコメもののマンガ原作を書きすぎたのが原因で、極度のラブコメアレルギーに罹ってしまったんですが、その治療過程で読んだ『コンビニで出会ったエロい女の子と爛れきった関係になりました。』という官能小説が、マドンナベリー文庫のコンセプトの元ネタになりましたので、敬意を表して依頼しました。
A/でも、日常感とキャラクター性のある官能小説の可能性みたいなものを感じたのは事実です。
それから改めて、成人向けコミックもきちんと読むようになったんですが、こっちはこっちで、10年ほど読んでいなかった間にすごい変化が起きていました。
A/ぼくがライトノベルで再デビュー(2006年)する前、成人向けコミックの原作や官能小説を書いていた頃(90〜00年代)は、日常感のある描写はマンガ家さんや編集者が趣味で試す程度の傍流でしたから、隔世の感がありましたよ。
受容には個人差があるし、異論もあるだろうけど、90年代はデジタル化への過渡期だったこともあり、作画での実験的要素のほうが目立っていて、ストーリー面……日常感とキャラクター性へのアプローチを意識して描かれた作品は珍しかったんですよ。
成人向けコミックだと、田沼雄一郎さんの『SEASON』とか面白かったんですが、90年代の時点でも渡哲也版の『浮浪雲』を知ってる読者はどれだけいたのかな……。
A/キャラクターの時代背景を表す、重要な要素だったんですよ。
まあ、90年代はそもそも連載ものが少なかったし、割り当てのページ数も16ページ程度でしたから、意識的に描かないとテンプレへ収めるだけで精一杯だったんですが。
A/当時は雑誌も中綴じだったから、総ページ数も少なかったんですよ。
肝心のエロシーンも2~3ページでしたから。
それじゃ抜きどころがない/アダルトビデオに負けてしまう、ってんで、00年代以降、平綴じになって、ページ数も増えたんじゃないかな。
A/司書房の底本は2004年なので、もう少しあとですね。
90年代のさいろーさんは、マンガ家でしたから。
実は隠し球というか、創刊前から密かに考えていた企画でして、どのタイミングでマドンナ社とさいろーさんに提案しようか、と思っていたんですけど。
A/むしろ、こっちの制作スケジュールの調整ですね。
企画から2年近くワンオペで走り続けて、そろそろ体調を崩しかけていたので、第六弾は復刻で行くぞ、ということで編集作業を始めたんですけど、休刊と移行の話がまとめて来たので、壮絶に忙しくなってしまった。
すべて終わったから、いまは気が抜けてしまっていますが。
A/書き下ろし作品だったら、もっとバタバタしていたんじゃないかな。
プロットができた作家さんから順不同で広告に名前を載せて、書き上がった作家さんからイラストレーターさんに依頼して刊行する、という形式でしたから。
A/それだけでも、かなり楽だったんですよ。
マドンナベリー文庫の企画編集作業で一番悩んでいたのは、小説の方向性からイラストレーターさんを選んで依頼することだったので。
作品のコンセプトとマッチングする絵柄を選ぶのは、小説を書くこと以上に緊張しますよ。
A/それはレーベルを続けていくうちに必ず、いろんな例外が生じることが分かっていますから、スタートの時点では理想形をそのまま書いておこうと思ったんです。
たとえば、昔、原作を書いていた雑誌は「レイプもの禁止」という珍しいコンセプトがあったんですが、平然とレイプものを持ってきて、「載せろ!」と恫喝してきた困ったマンガ家さんがいまして。
そういうのを避けるために、最初に宣言しておきたかった。
魔除けのようなものです。
A/当時の雑誌編集長はかなり嫌がっていたけど、「前任の編集長がネームにOKを出していたから」と担当に押し切られましたね。
載せたことで雑誌のコンセプトが崩れて、普通の雑誌になってしまったので、突っぱねるべきだったと思うんですが。
雑誌は一応、合議制ですから、現実にはそうも行かない。
A/あの当時の基準なら、森山塔(山本直樹)先生、唯登詩樹先生クラスの大御所、もしくは大暮維人先生クラスの腕利きだったら仕方ないな、と思うんですが。
才能のある作家さんなら、曲げるだけの価値もあるでしょうが、「編集は思想」ですから、曲げたらそこで終わりというか、あとは限りなくあやふやになっていくだけなんですよ。
A/(冒頭の)『ノクターナルプレイグラウンド』編者解説の最後に書いた通り、「官能小説の新しい実験室」第2シーズンとして、2025年、某社の新レーベルへ組み込む形で刊行する予定です。
A/やっぱり単独レーベルで隔月刊だと、どうしても実験レーベルになってしまうんですね。
だったら、複数ラインが同時に走っている総合レーベルのレーベル内レーベルになるほうがいいんじゃないかな、と。
まあ、マドンナベリー文庫も、書誌登録上の扱いはマドンナメイト文庫のレーベル内レーベルだったんですけど。
A/その通りですけど、別ラインですから。
こちらの制作コンセプトは変わらないし、ぼくが作っているラインの方向性が確保されるなら、特に問題はないです。
発売したら「パノラマ観光公社」のクレジットが入って、引き続きこのnoteやXで告知しますので、興味があるひとはそれで買ってくれれば。
A/無理。体力的に無理。
企画から校閲までワンオペですから、小説やイラストレーションのクオリティも維持できない。
セレクション的なレーベルでもあるから、流れ作業にはできないんですよ。
A/マドンナベリー文庫という名前はマドンナメイト文庫が由来なので、出版社が変わったら当然、使えないんですが、今のところ、新しいレーベル名は決まってないですよ。
というか、『ノクターナルプレイグラウンド』の編集作業中、休止と移行の話が同時に来て、急遽、移行広告を差し込む……と、けっこうギリギリの進行だったので、決まっているわけがないですな。
A/出版業界に30年もいると、良くも悪くも休刊には慣れているんですが、今回は新しい受け皿がある幸運なケースですから、急がず落ち着いて考えよう、と思っています。
A/清水マリコさんは、MF文庫Jでtoi8さんと組んで『嘘』シリーズや『ネペンテス』といった都市怪談系のライトノベルを書かれていた作家さんですが、もともとはアダルトアニメやゲームのノベライズを手掛けていたんですよ。
ところが、依頼しようと思ったら消息不明になっておられたので、toi8さんに訊いたりしたんだけど……何はともあれ、連絡が取れて良かった。
A/どうかな。そのへんは敢えて曖昧にしておきます。
ちなみに、創刊広告の時点で仮タイトルは載っていたんですよ。
A/荒川さんとさいろーさんはガガガ文庫創刊OB会繋がりです。
いや、そんな組織はありませんが、荒川さんは最近、自主制作の短編小説集を出されていたので、依頼いたしました。
A/だからそんな組織はありません……というか、原田さんの件はいろんなひとに訊かれるので、この際、正直に話しておくか。
本人は言及されることを嫌がるんですけど、だからと言って陰謀論的な憶測をされてもこっちが迷惑だし。
A/いや、原田さんはこの10年間、ほとんど寝たきりだったんで。
ようやくリハビリ兼ねて書き始めた状態だから、「物理的に」無理ができない、ということです。
A/持病の腰痛の悪化です。
座ってキーボードを打てないから、タブレットPCを渡して、タッチタイプで書いてもらっています。
A/そうなるのかな。
一応、日常生活ができる程度に症状は軽くなりましたが、長時間の執筆作業はまだできない、という感じですね。
A/プロットは10年の間に書き溜めていたみたいで、夜ノ杜零司さんの『自己啓発少女と俺の夢を叶えるAV撮影』と同着で届いておりました。
だから、創刊広告にも入っているんですが、物理的に無理ができないのはどうしょうもないので。
申し訳ないですが、しばらくお待ちいただけければ。
A/それもまた成り行きで。
むしろタイミング良く、文三の部長に旧知の鍛冶さんが就任したから、上手く話が繋がった感じですね。
詳しく説明するとややこしいので、経緯は説明しませんが、当時の掲載誌を古本屋で探す以外に読める方法はあったほうがいいと思ったんですよ。
90年代のライトノベルはそろそろ発酵して毒が抜けているのか、なんだかんだで懐かしんでくれるんですが、ゼロ年代は未だに生々しいというか黒歴史っぽいし、まだしばらくそういう扱いが続くような気がしましたので。
A/そう。原田さんも商業レーベルに担当編集がいないんですよ。
ガガガ文庫で最後に出した『風に乗りて歩むもの』以降、何も活動がなかったのもそういうことです。
そもそもガガガ文庫を紹介したのもぼくですけど、その担当さんもとっくに辞めていますから。
A/当時のことを覚えているひとがいなくなっちゃいましたからね。
原田さん以外にも、サルベージとか復刻とかリブートとか、身の回りにいろいろと案件はあるんですが、その都度、探偵みたいに人探しをやっていますね。
A/いや、もっと前ですよ。
学生時代の先輩というか、某誌の投稿者仲間というか、プロになる前の同人活動を賑やかしで手伝ったりしていたから。
マドンナベリー文庫の執筆陣だと、二番目に付き合いが古いです。
A/佐々宮ちるださん。
高校生の頃にいた同人サークルで一緒だったから、30年以上の付き合いです。
……と言っても、こちらはムーンライダーズのライブに行くと鉢合わせるくらいの接点しかなかったんですが。
A/とりあえず、マドンナベリー文庫の未刊行作品から出していく予定ですが、水面下では他にも考えていますよ。二巡目とか。
あくまで「官能小説の新しい実験室」ですから、やっぱり長くはないと思うんですが、それでも、もう少し続きますので、細かい概要が決まりましたら、改めてこのnoteやXで告知いたします。
なので、たまにチェックしてくれると嬉しいですね。
その頃には、このトークの続きが載っているかも知れませんし。
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