天誅札 |シナリオ
○ナギサ家
散乱したゴミ袋。机の上は食べ終わったコンビニ弁当の容器が散乱している。水道の蛇口がよく締まっておらず、ぽたぽたと水滴が落ちる。布団に閉じこもり息をひそめるナギサ。
借金取り「ねーー。玄関開けてもらえますーー?」
バンバンと激しい音でたたかれる玄関。
借金取り「こっちもねーー、仕事で来てんすわーー。はよ返してもらわんとこっちも困るんすよねーーー」
気配を消すナギサ。
借金取り「山下さんが返してくれるまで毎日来ますからねーーー?逃げようだなんて思わないでくださいねーーー?」
玄関から離れていく足音。布団から顔を出し、カーテンの外をそっと覗く。外には誰もいない。安どの表情を見せるとともに、頭を抱える。頭をかき乱しながら布団に顔をうずめ、そのまま静止。立ち上がりパーカーへ着替えだす。台所に向かい、コップに水を灌ぐ。ぐびぐびと飲み干した後、包丁を取り出す。包丁の刃にナギサの顔が反射している。包丁を懐に入れる。
○喫茶店
喫茶店の扉を開けるナギサ。
女店員「いらっしゃいませ、空いてるお席にどうぞ」
席に着き店内を見渡す。包丁を忍ばせている懐を必要に抑えている。
女店員「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
水の入ったコップを机に置く店員。軽く会釈するナギサ。
ナギサ「・・・」
レジのほうに目を向ける。レジでは男性の客が会計を済ませ、店から出ようとしている。店内は若い女性か老人の客しかいない。
ナギサ「・・・ふう・・・」
うつむき深呼吸をするナギサ。目をつむり深呼吸を何度もする。目を開き顔を上げる。懐の包丁に手をかけ立ち上がろうとする。
女店員「ご注文がお決まりでしたらお伺いいたします」
店員にびっくりして言葉に詰まるナギサ。
ナギサ「あっ・・え、あ・・・」
すこし上げていた腰をおろす。店員は笑顔でナギサの返答を待っている。
ナギサ「あっ、え、えっとアイスコーヒーを・・・」
XXX
コーヒーが注いであったコップ。氷がからりと鳴り、しずくが表面を流れる。席を立ちレジの前へ。
女店員「お会計350円です」
ナギサ「・・はい」
財布の中を見る。細かい小銭がじゃらついている。お札はない。小銭を掌に集めていく。100円、200円、250円、260円・・・。店の奥の電話がなる。
女店員「あーごめんなさい、すぐ戻るんで」
軽く会釈をしレジを離れる店員。構わず掌にお金を広げるナギサ。350円分の小銭を掌に出すと、財布の中身はスカスカ。ため息をつく。店員はこちらに背を向け電話で話している。ふとレジスターに目をやる。釣銭入れが空きっぱなしになっている。店内を見渡す。客はナギサ以外一人もいない。店員の声しか聞こえない空間。レジスターを見る。生唾を飲み、店員をちらりと見る。その瞬間、店員と目が合う。
女店員「・・・・・」
電話を止めこちらに体を向けている。目を見開き微動だにしない店員。とっさに目を背けると電話の声が再開した。
女店員「ーーーねぇもう、やめなってもぉ・・・。あ!ごめんなさい!またかけなおすわね!」
こちらに小走りで戻ってくる店員。
女店員「ごめんなさい、お待たせしちゃって!」
ナギサ、350円ちょうどを手渡す。
女店員「はいちょうどですね、ありがとうございました」
ナギサ、足早に店を後にする。
○公園
ベンチに座るナギサ。目の前では子供たちが遊具で遊んでいる。
ナギサ「・・・・はぁ」
ベンチにうなだれて、舌打ちをする。少女がナギサの座っているベンチに駆け寄り、キャラクターのポシェットを置く。少女再び遊具のほうに駆け出す。遊具で遊んでいる子供たちにに合流し遊びだす。ナギサ、ポシェットに目をやる。公園全体を覗いた後、ポシェットを開く。
ナギサ「おっ・・・ん?」
ポシェットの中は硬貨が一枚のみ入っている。かなり古びており、現代のものではない。困惑の表情を見せたナギサだが、少女たちが夢中で遊んでいることを確認し、ポケットへ入れる。公園の出口へ向かうナギサ。キャッキャと子供の声が聞こえるほうに目を向けると、ポシェットの持ち主の少女だけこちらを凝視している。少女だけ時が止まっているようにも見える。ナギサ、冷や汗をかきながら駆け足で公園を後にする。
XXX
少女、ベンチに駆け寄り、ポシェットを手に取る。ジッパーを開くと木の実やどんぐりでパンパンになっている。ポケットから小さな木の枝を取り出す。ポシェットに入れる。ポシェットを肩にかけ、遊具のほうへ駆け出す。
○橋の上
息切れし、立ち止まるナギサ。膝に手をつき、乱れた呼吸を整える。懐の包丁を取り出し、川に向かって投げる。胸を抑えながら歩き出す。
○自販機前
歩くナギサ。きょろきょろそわそわ。自販機を見つけ、かけよる。財布を開くが、103円しかない。飲み物の値段表記は110円。
ナギサ「っんだよ・・・ったく・・・あと十円があれば・・・」
体中をパタパタ触る。
ナギサ「・・・あ」
ポケットから古びた硬貨を見つける。硬貨を見つめる。自販機に古びた硬貨を入れる。
ナギサ「お、使える」
電照板に100と表示される。続けて財布の100円を入れ、ボタンを押し、ガコンっという音とともに缶ジュースが落ちてくる。ふたを開ける。飲みながら自販機に背を向け歩き出す。
「ビーッ」
音にびっくりして振り返るナギサ。紙幣投入口から一枚の紙幣が出てきて、ひらひらと自販機の下に潜っていった。
ナギサ「え・・・」
訝し気に自販機へ近寄る。缶を置き、自販機の下を覗くナギサ。暗くてはっきりは見えないが奥に紙幣がある。周りを見渡す。すこし考えた後、フードをかぶり、紙幣に向かって手を伸ばす。
ナギサ「・・・っあと・・・すこしっ・・・」
苦悶の表情を浮かべるナギサ。腕をできるだけ奥に突っ込む。通行人たちは、自販機にかがむナギサを凝視しながら通り過ぎていく。自販機下、指先がもう少しで紙幣に届きそう。が、やめる。
ナギサ「・・・まあ、さすがに・・・」
汚れを払いながら立ち上がる。缶ジュースを拾い上げ、一口ふくむ。飲み込む。その瞬間、自販機の下から何者かに足を引っ張られ、倒れる。鈍い音が鳴り響く。カランとこぼれた缶ジュースの中身がアスファルトに零れ滲む。頭から流れ出した血液と混ざる。ズザ・・・ズザ・・・と自販機の下に引っ張られる横たわったナギサ。体がひかれるたびに血痕が地面に描かれる。自販機の下に体すべて引き込まれてしまう。
XXX
自販機の下から手が出てくる。長髪の男が顔を出す。必死に体を出そうとよじっている。呼吸が荒い。自販機下から抜け出すと、よろよろっと立ち上がる。どこか古めかしい前時代的な服装をしている。おでこは血で汚れている。男は周りを見渡し困惑の表情を浮かべた後、焦った様子でどこかへ走り去っていった。
完