ブンゲイファイトクラブ3・由々平秕による採点方法の補足
評本文では全体の評価基準「印象」「技術」「題材」「思想」の四視点について、それぞれの細かい含意は省略しました。それらについて一応ここで説明をしておきます。
まず「印象」はいわゆる読後感、つまり素朴な読者として覚えた驚きや笑いや切なさや感動や温かさや恐怖や困惑に基づきます。この点数が高いものを由々平は「好き」なのだと考えていただければほぼ間違いありません。
次に「技術」では、文字通り全体の構成力や基本の構文・修辞力を評価します。ギミックを効果的に作動させる組み込みの巧拙なども、技術点の範疇です。一般的に言ってウェルメイドな文体や整った構成のもの、仕掛けが巧妙な作品に高くつきやすく、粗削りな、あるいはクネクネした未知の魅力を振るい落としてしまう融通の利かなさがありますが、そこは概ね印象点に反映されるのでバランスはとれているはずです。
三つ目の「題材」は着想のオリジナリティにかかわるもので、先の技術点が作品の形式面を見るのに対し、こちらでは内容面についてざっくりした評価を下します。主軸となるモチーフや、舞台設定、描かれる人物像、作品全体を貫く固有のポエジーなどがいかに独創的、あるいはシンプルに魅力的であるか。したがって奇想のインパクトに題材点は偏りがちで、オーソドックスな舞台設定の作品は若干不利になるかもしれません。
最後の「思想」は一番わかりにくいので、少し丁寧めに説明します。人は思考や情動や五感など複数のチャネルを通じてこの世界を生きていて、それらが絡み合ってその人固有の「構え」を形成している。としたとき、作品を通じて作者の構えが何らかのかたちで表出され、それが読み手の構えと相互作用を起こしうるその度合いを評価するのが思想点です。要するにそれを読むことで特別に思考を促されたり、情動を揺さぶられたり、五感が問い直されたりしたかどうか。あるいは先の「印象」が精読を経て深化ないしは構造化されたものとも言い直せるかもしれません。ですから単純に特定の倫理観とか価値観を正面切って提示する作品が必ずしも高得点を得るわけでも、ましてやそういうものの善し悪しを評価するのでもないことは言い添えておきます。なお、これは「印象」の補足的な位置づけになるので他の三つに比べてやや低めに、1~3点の範囲内で留めています。
ちなみに最終的な得点に組み入れられるのはこれら各点の平均、かつ小数点以下は四捨五入なので、四つの合計点の時点では勝っていても平均点が同じになったうえ「細部点」の有無によって結果が逆転することもあります。それでもなお、全体にとってはどうでもいいことだってありうるような細部の驚きを勝負の鍵に持ち込みたかった、というわけなのですが、採点システムとして歪であることは否めない。このことはファイターのみなさんが私のジャッジをジャッジされる際に要検討事項になるかもしれません。
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