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ボストン応援イラストメイキングとカラーインクと私

2019年4月に開催されたボストンのジャパンフェスティバル。

そこで行われる競技かるたのデモンストレーションの広報に使用するイラストを、貸してもらえないかと編集部に連絡あり。

すぐ「書き下ろします」と言ってしまうので、ボストンの街をイメージした着物を着ている千早を書きました。

その時撮っていたメイキングがこちらです。

これはボランティアのお仕事だったのですが、かわいそうに思ったBE LOVE編集部が雑誌にこのイラストを載せてくれて、原稿料をもらうことができました。BE LOVE編集部ありがとう!

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漫画を描くときに使う色は黒のみ。

でもカラーイラストを描く道はまんが道にも存在し、高校一年生の頃のわたしは「カラーインク」なるものにとても憧れていました。

ドクターマーチンは田舎の高校生の耳にも入るくらい有名で、イラストを書くならそれだと、サクラクレパスじゃないんだと、ドキドキしながら天神の画材屋さんに行ったことを覚えてます。

インクは一本500円しました。

100本くらいいろんな色が並ぶのに、私は二本しか買えなくて、その時選んだのがTrue blueとScarlet。ものすごく激しい青と赤です。

とてもとても美しい。これ以上濃いブルーはないんじゃないか、どんな海でも描けるんじゃないか、とトゥルーブルーをパレットで溶いては思い、

こんなに裂けるような、そして咲けるような赤はないんじゃないか、とスカーレットの濃淡で画用紙を染めながら思ってました。

でもそんな激しい2色、それで描けるのはウルトラマンくらい。

どうしようもないので、次の月のお小遣いでオレンジを買いました。オレンジだけど、水で薄くすると山吹色、黄色、いろんな幅のある暖かいオレンジでした。

その三色を混ぜて、描けるものはグッと広がりました。足りない色はカラーペンをパレットで水に溶いて、サクラクレパスも出動させて描いてました。

カラーインクの美しさは透明感です。透明感を活かす場所にだけ特別に使いました。ものすごく大事にして、少しずつ少しずつ。

さすがドクターマーチン、大変濃いので、なかなか減りません。

ゆっくり使ううちに私は大学生になり、漫画家として生活するようになり、連載するようになり、いつの間にかインクをたくさん買うことができるようになりました。

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それでも私の手元にはずっとその三本がありました。何年か前にオレンジだけ瓶を割ってしまって、もうないんだけど。

中身はだいぶ減ってしまって、カラカラになっています。使うことはありません。

500円のインクを一本買うことが、おそらくどこかのマンションを買うことよりも難しかった。

その「限界」が近くにある厳しさを、たぶん私はずっと忘れないのです。

砂金のように大事に使ってたインクは、砂金よりもきれいなものをくれたまま、引き出しに眠ってます。

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でもたぶん、また水を足したら、綺麗な青と赤とを見せてくれると思うんですよ。だって天下のドクターマーチンですからね。

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