デザインの観点から見直したら名作が神作になった「グッド・ウィル ハンティング」②
感想の続きです。
「グッド・ウィル・ハンティング」のことを言葉にしようと考えている時に、目に入ったつぶやきがこれらでした。
ああそう、この部分だ。この部分が手厚いんだ、と感じたのです。
「グッド・ウィル・ハンティング」には重要な登場人物は5名。
女性は一名だけで、四名は男性です。
心に傷を負った男性キャラは、これまで大抵の物語で暴力に明け暮れたり、女性を加害したり、弱者を搾取したり貶めたりして物語を動かしていました。
心の傷を手当てしてくれるのは恋愛だったり母親の愛だったりしたのですが、「グッド・ウィル・ハンティング」では、明確に大人の男性による手当が描かれます。
継父に虐待されていたウィルを、その時は助けの手が届かなかったけれど、時を経て大人の男が守ろうとしてくれている・・・
つまりは父性の登場です。
傷つくのが怖いとハリネズミのように棘を出して女性を遠ざけてしまうウィルの、ほんとうの傷を癒したのは、
妻だけを深く愛する成熟した大人の男であるショーンと、
優秀な数学者でありながらウィルに敵わないことを受け止めて、なおかつ面倒を見てあげようとするランボー教授でした。
親友のチャッキーも、類まれな能力を持つウィルのことを応援する心根の優しさを持っていて、何かあったらいつだって飛び出していって喧嘩してくれるという信頼関係で支えます。
MITで難題を解く数学の天才としての成功譚ではなく、それをきっかけとして自分を受け入れてくれる人間と接することで、自分自身を受け止められるようになる物語なのです。
『グッド・ウィル・ハンティング 』が私にとって素晴らしい映画なのは、「どれほど隠してもきみの欲望や希望を知っているよ」と深い洞察で言い当ててくれる大人の男が何も搾取してこないことだし、
大人の男同士も尊敬と友情でもう一度握手ができるのだと昼下がりのオレンジ色の研究室で見せてくれる所なのです。
自分の能力に気がつきながらも、友達と同じでいたくて運命に嘘ばかりついていたのに、それをやっかみもせず利用したりも裏切ったりもせず、全部わかってくれてる親友がいること。埃と砂だらけの工事現場で真っ直ぐ目を見ながら「お前がいなくなる日を夢見るのが楽しい」と言ってくれる所なのです。
前に進みたくなくて喧嘩に明け暮れていた日々に終わりを告げさせてくれるのは、運命の女性などではなく、3人の男たちでした。
彼らの友情と博愛に背中を押され、やっと特別に思える女性に会いに行こうと赤い車を走らせるラストは、本当に胸が熱くなります。
男の連帯がこの映画には詰まっています。真剣に誰かを愛した記憶自体が人生というものの本質的なきらめきなのだと、人は信じるに足るのだと、鮮やかに感じさせてくれる映画です。
みっともなくて泥臭いウィルたちの一秒一秒が、人生を美しさという観点で見たときの答えに繋がっていることを感じます。ウィルがサラサラと解く数学の答えは星座のようで、星座を見つけることよりも自分の本当の想いを見つけることは難しいのだと、うまく生きているように見えれば見えるほど思います。
いつかウィルが普通の男になって、違う男を救えればいい。最愛の妻のことを思い浮かべて、人をこんなに深く愛せることを「寝てる妻のオナラ」の話で伝えたらいい。
「男は男同士でヨシヨシし合わない」ということを指摘できるのならば、「ヨシヨシしあえるようになればいいじゃない」と皮肉じゃなく言いたい。
やり方がわからない人はぜひ「グッド・ウィル・ハンティング」を見てほしい。そんな気持ちになる20年ぶりの神作でした。
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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