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運命の人はいないかもしれないけど、運命の物語はある

卒園式や卒業式、入園式や入社式、さまざまな式典が目白押しの春です。
お元気ですか?

私は、共感能力どこに置いてきてしもうたん…?というほど話の長い来賓の偉い人のスピーチを聞きながら、これまで聞いたどんなスピーチも結局ビタイチ思い出せないな・・・ということを思い出していました。


長女が小学校一年のころ、画用紙いっぱいに書いたライオンの絵が校内で選ばれ、区の展覧会に飾られるということがありました。

私も家族も喜んで、区内から同じように表彰され集められた生徒さんの作品展があるというので、どんな遠足よりもワクワクしてバスで見に行ったのです。

あの時の私は本当に考えが浅く、10作品くらいが恭しく掲示されているのかな、と思っていたら、全部でおおよそ700作品が並ぶ大展示場で、壁も机も至る所が小学生の作品だったことに驚きました。

区内の1〜6年生が学年から平均4作品くらい集められた分量なので、冷静に考えると当然なのですが、その多さに圧倒されました。

絵だけじゃなく造形物もあり、立体物もあり。
「私の考える理想の家」というテーマで作られたミニチュアの箱庭ハウスはどれも心躍るもので、小枝や紐で作ったブランコや、爪楊枝を駆使して作られた螺旋階段など、作った子にこの感動を伝えたいわ!連絡先はどこ!?(ないです)と瞬時にファンになるような作品もありました。

あまりのレベルの高さにポカーンとなる家族一同。

とはいえそれは「区内の優秀作品」。全国規模になるともっとすごい作品に出会うことでしょう。

それでも、インターナショナルスクールの生徒さんのテーマも色使いも画用紙からはみ出してくるような元気な作品を、「これどうやって書くの」と言いながら見ている我が子を見て、わたしはハッとしたのです。

我が子がちょっとだけ賞をもらったからこの展示会に来たけれど、選ばれてなかったら来なかったわけで。

来なかったら、年齢の近い子たちの作品に触れて「自分はまだまだだな」と思うことも、「同い年でもこんなのが作れるんだ」と刺激をもらうこともなかったのです。

賞をもらうと、違う世界への扉が一瞬開く・・・・

優秀作品の展示会に来るか来ないかで、出会う刺激に大きな差があるのです。
区の展示会なんて入場料もないし本当は誰でも見に来られるのに、多くの人は「我が子の作品が飾られて」ないと来ない。

「だれでも来てもいいよ」と言われたのと「君の席があるよ」と言われたのでは違う。

平等に可能性は開かれている、と思っていた自分には、このことは大きなショックでした。

でも「君の絵が飾られてあるよ」と展覧会に呼ばれて行った娘は、その経験をずっとピカピカのメダルにして、右か左かの肩甲骨の裏側に持っているのです。
そして「絵の上手い子はたくさんいる」という思いも。

それは彼女が自分で得たチャンスと現実でした。

基本的に、人は自分が参加していないところで決められた優劣に関心がありません。
逆も然りです。

陸上で足が速い子は、区大会から市大会に進んだ時に「おれめっちゃ井の中の蛙」とショックを感じるでしょうし、作文が得意な子は、自分の作品が選ばれて並ぶ文集の筆頭に掲載された「最優秀賞」の作品に「やべえ・・・」と強い刺激をもらうでしょう。

それは上から降ってくる校長先生の話ではなく、自分で取りに行った経験だからです。

若い頃の「経験」には苦痛が7割くらい混ぜられていて、それは苦く痛く恥ずかしいものなのに、自分で取りに行ったものだけはそれを飲み込めるのです。


3歳からサッカーをしている我が家の次男はもう5年もサッカー歴があるのですが、そのうち4.5年は「ただ体があって、ただボールがある」だけでした。飛んできたボールを蹴る、とりあえずボールのあるところに走る、インサイドキックの形だけ教わる・・・。

そんな彼が漫画&アニメで「ブルーロック」に出会ったのです。
グルルンとイメージするものが変わりました。

「ノエル・ノアのいる国で僕がサッカーしたらどうする?」「ブラジルに行ったらどうする?」「日本代表になったら嬉しい?」

プレーも練習時間も変わりました。雨の日も、とっぷり暮れた夜も、「ボールが蹴りたい」と言って出掛けていきます。憧れを見つけた男の子の行動は突拍子もなくてヘンテコで、でもまさに恋をしているようです。

物事が上達するときに絶対に必要なのが自分の内面からの憧れと情熱だとずっと思っていたのです。
わかっていたのですが、どうやってもそれは上からは与えられない。校長先生の話には入っていない。

自分で見つけてきた物語だから自分の中に入るのです。

自分ができることは、自分自身が苦痛7割の「経験」に臆病にならないことだし、人が何かに出会う機会に敏感であることだけでした。

物語に心が開かれていることが、人生を決めたり変えたりするのなら、どれだけでも物語は必要で、友達のように思えるならば2次元も2.5次元も3次元も関係ない。

運命の人はなかなかいなくても、次元の違うレベルで存在する運命の物語は、きっとあなたに開かれている。
何度も何度もちゃんと出会う春がきますように。
ちょうどいい時にちょうどいい場所で。


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