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『おふざけの島』がオーストラリアくらいある人について

「秋が短くなった気がする」とよく言われるけれど、それでも「今この瞬間は間違いなく秋だ」と感じる時間が積み重なって、11月ももう下旬。
みなさんお変わりありませんか。

一つ前のnoteでは「である」調だったのに、今回また「ですます」調になり、秋と冬のせめぎ合いのように自分のモードの不安定さを感じています。今回は「ですます調」で行きたいと思います。変換に最初に出てきたのが「デスマス蝶」で南米にいそうな蝶を思い浮かべました。鱗粉が黄金とバイオレット色のやつ。



先日下北沢の劇場・スズナリで舞台を見てきました。
【作・演出】宮藤官九郎
「主婦 米田時江の免疫力がアップするコント6本」

ほんとにそのタイトルなんか!?と思って見にいったら本当でした

宮藤官九郎さんの作る舞台を色々見てきてますが、コントだけ6本!と銘打たれたのは初めてな気がして、どんな心境の変化で?と思って着く客席。

チケットをとってくれた友人Tちゃんのチケット運がまた良すぎて、一列目ど真ん中。しかも劇場スズナリは180名ほどのキャパシティで、客席と舞台の距離がとても近い・・・・それはもう、自分の家のリビングに座っていたらテレビから片桐はいりさんが出てきた!!に近い距離感。
時々皆川猿時さんと目があった気がして(気のせい)(気のせいじゃない)ふわあっと心臓が止まるような時間もありました。

さすがコント!!というくらいの笑いどころ満載の時間でした。細かいところ全然覚えてないのにギャグの仕掛けのところすごい覚えてる。なんだったんだあれ。すごい直球のギャグ装置。
例えばこういうの。(見に行く方はネタバレ注意です)






座った足を模した座布団の上に座る・・・だと・・・・

もしこれから「米田時江」を見に行く方がいても、この絵を見てからも変わらずおもしろいから許してほしい。いつ見ても自分だけの「米田時江」になるから。(いつ見ても、は語弊があるかもしれない。だってクドカンのドラマ「監獄のお姫さま」の中でピーナッツ姫のギャグが出た時笑えたのはあの時だったからで、今見てもポカーンとなるに違いない。鮮度が大事なギャグ多めなのもクドカンの特徴)

面白さの説明がしきれないギャグがたくさん押し寄せてくるコント6本。

めちゃ笑って免疫力が上がるってことかな〜とリラックスして笑ってたら、そのコントがみんなつながって、最後の最後で「あんなにずっとふざけてたのに、なんだこの満足感は」という観劇体験になるのです。
免疫力が上がったかどうかはわからないけど、米田時江と親友の輪島さんが好きになり、人生を愛したくなっちゃった・・・あんなにふざけてたのに・・・。

宮藤官九郎さんはずっと前からずっとご活躍だけど、ここ1、2年も絶え間なく作品を出し続けていて、
「離婚しようよ」
「季節のない街」
「不適切にもほどがある!」
「新宿野戦病院」
「終わりに見た街」
etc・・・なんですが
「重めの作品じゃなくて軽くコントでも・・・」というくらいの軽い取り掛かりでこんなに複雑な舞台を作ってくるエネルギーに圧倒されます。

特に舞台では差別や迫害、人間のどうしようもない業の深さやエロティシズムも練り込まれるのですが、どの作品でもとにかくまぶされるのがギャグとユーモア。
まずふざけるポイントをつくり、ふざけまくってからキャラの個別性をだして、おふざけの御簾みすのむこうに苦しさややり切れなさの影を置く感じ。そして御簾みすを上げたときに、陽の光を浴びて愛情や優しさがふわっと見えるような物語を作ってる。

クドカンがどの作品でも決して手放さないのは一貫して「おふざけ」だということを、酔客で賑わう下北沢の町を歩きながら感じました。
頭の中で繋がるのはディズニーの映画「インサイド・ヘッド」におけるライリーの頭の中の『性格の島』。

11歳のライリーを描いた「インサイド・ヘッド」。13歳のライリーの成長を描いた「インサイド・ヘッド2」。
この二つのシリーズではライリーの『性格の島』の変化が描かれます。

一作目で一番大きかった『家族の島』は取るに足らないほど小さくなり、『友達の島』『ホッケーの島』はとても大きくなり、大きく賑やかだった『おふざけの島』は何割かサイズダウンし・・・・。

鑑賞中なるほどなあ、ふふふと笑いながらも、その変化が「島」という形のあるもので明確に描かれることでハッとするのです。

自分だって、大人になるにつれ大事なものの比重変化があったこと。
それに気が付かないでいたことに気がつくのです。

『おふざけの島』・・・。
8歳くらいまでの子供はおふざけが大好きで、生活が成り立たなくなるくらい踊ったり、兄弟でお尻を出して窓際で騒いだり、絵の具を身体中に塗りたくって大笑いしたり。
とても大きく豊かな『おふざけの島』があったのに、生活や仕事や意味のある作業に追われ、おそらく今はお盆サイズの『おふざけの島』しかないのです。

それが、クドカンの作品にはずっとある。オーストラリアくらいのサイズである。

島。豊かに生い茂る巨木の幹にテレビをたくさん吊り下げて、全チャンネルチェックしながら大笑いするスーツ姿のピエロがいる。タバコと酒とエロいサンタが出てくるびっくり箱を、ウイッグとメイクを凝らした極彩色の鳥と猛獣が作ってる。

そんな島がずっとクドカンの中にはある。
でも本人はおふざけを体現する側になるよりは、思いっきりおふざけをしてくれる誰かをいつも欲してる。自分の脚本で誰かに大いにふざけてもらって、それを大笑いして見ていたいと思ってる。
笑わせたいし、その笑い声の中で自分も笑いたい。作品の中からそんな深い欲望をいつも感じるのです。

笑っていいの?という題材までも笑いに取り込み、被差別者も被災地も性風俗従事者も障害者もみんな笑いの中のピースにする時、どの立場の人もめちゃくちゃチャーミングになるという魔法を何度も見てきました。

私は多分クドカンのその部分を人間に対する愛情が深いと思ってる。

その『おふざけ』が豊かなこと。豊かなままで大人になって、人にそれを分けられるほどになっていることにほとほと言葉をなくすのです。
こんなに書いておいてな・・・(2497文字目)。

下北沢のイタリアンで食べたおいものピッツァ。大衆ビストロハルタ。

キャストの6名はみなさん完璧に素晴らしかったのですが、その中でも今回初めて知った女優の北 香那さんが素晴らしかった。あの戸惑った時の演技のナチュラルさと、キレた時の演技のキュートな狂気・・・歌もうまかった!!
チェックしたい俳優さんに出会えるのも嬉しい夜でした。


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